【核兵器禁止条約交渉】第2会期に向け議長草案――核保有国参加の「2つの道筋」を想定

公開日:2017.09.15

核兵器禁止条約を交渉する国連会議の第2会期を前に、エレイン・ホワイト議長(コスタリカ大使)による条約草案が5月22日、公表された。核兵器のいかなる使用もその非人道性にかんがみ国際法違反と宣言し、包括的な禁止規定により核兵器そのものを違法化する草案は、3月会期で広く合意された事項を概ねカバーしている。ただ、「使用の威嚇」を明示的に禁止していないなど問題点もある。6月15日にニューヨークで再開される交渉会議では、この草案をたたき台として、条約の成案確定に向けた討議が繰り広げられる。


 条約草案の暫定訳を資料1として3~5ページに示す。草案は15パラグラフの前文、全21箇条の本体、そして保障措置に関する3箇条の附属書からなる。
 草案公表時の説明(書面が公開されている1。以下これを〈説明〉と言う)でホワイト議長は、3月会期の議論を通じ浮かび上がった以下の原則に基づいて起草したと述べた:①補完性(既存の諸条約を強化・補完し、不拡散体制とりわけNPTを弱体化させない)、②補強性(既存の不拡散規範を逃れる抜け穴を作らない)、③簡潔・非差別的(明確で強力な禁止)、④将来への基礎(長期運用に堪える柔軟なものに。核保有国の将来の加入に向けた道筋や枠組みを示す)。〈説明〉ではまた、草案が、コンセンサス形成の基礎として、3月会期で参加国の見解が一致した部分をまとめたものだとした。
 前文ではまず、核兵器使用による壊滅的な人道上の結末と「ヒバクシャ」・核実験被害者の苦しみに言及し、核兵器が二度と使用されない努力が必要との認識を示している。その上で、武力紛争の手段が無制限ではないといった国際人道法の諸原則に立脚すれば、核兵器のいかなる使用も国際法・国際人道法上、違法だと宣言している。続いて、国連憲章の目的と原則など既存の国際法上の原則が掲げられ、さらに、「厳格かつ効果的な国際管理の下におけるあらゆる点での核軍縮に至る交渉を誠実に追求し」「かつ完結させる」というNPT第6条や96年ICJ勧告にうたわれた義務が確認されている。そしてNPT、CTBT、非核兵器地帯条約という既存の法的文書に言及して、条約がこれらを補完ないし強化するものであることを示唆している。さらに、国連や国際赤十字と並んで、核廃絶へのNGOや「ヒバクシャ」の努力にも言及された。

「使用の威嚇」など明文で禁止せず

 本体では、1条で禁止事項が規定されている。いずれも3月会期で幅広い合意があった事項といえる。「核兵器その他の核爆発装置」「実験的爆発又は他の核爆発」という文言など、NPTやCTBTと同様の用語法が使われており、前文でこれら条約の重要性をうたっていることとも呼応する。
 「実験」については、3月会期では議論が分かれたが、草案では禁止対象に含まれている。ただ、禁止を求める声のあったコンピューター・シミュレーションや未臨界実験など爆発を伴わない実験は対象から外されている。同じく議論のあった「使用の威嚇」と「融資」も、草案では明示的に禁止されていない。3月会期で多くの発言者が禁止対象に挙げた「通過」も含まれなかった。
 議長は〈説明〉で、3月に議論された中で、引き続き議論を要すると考えられる重要事項のいくつかは、あえて草案では触れずにおき、交渉会議の6-7月会期で先入観なしに議論が続けられるようにした旨を述べている。「使用の威嚇」などの除外にはそうした考慮が働いたと思われる。
 核被害者の権利保障や環境回復といった、いわゆる積極的義務は6条に規定された。同義務に関し、3月会期では条約違反に対する通報者の保護や教育・啓発も挙がったが、含まれなかった。

早期発効を重視した「制度的取り決め」

 草案の7条以降は、いわゆる制度的取り決めに関する規定が並んでいる。
 9条は、発効1年後、それ以後は原則2年ごとに締約国会議を開催すると規定する。5年後以降は運用検討会議の召集も可能になっている。締約国会議では、核兵器計画の廃棄のための規定(追加議定書を含む)など「核軍縮に関する更なる効果的措置」も検討できる。また、非締約国や国際機関、NGOなどがオブザーバー参加できる。
 13条は、締約国に対し、条約普遍化に向けて非締約国に加盟を奨励することを促している。
 一方、発効要件国数は40か国(16条1項)と少なく、早期の発効が目指されていることが窺えるが、議論を呼ぶ可能性がある。留保は認めないとされた(17条)。

核保有国、核依存国を受け入れる準備

 草案には検証規定も盛り込まれた。締約国には、自らが核兵器を持っているか申告をし(2条1項)2、IAEA保障措置を受け入れる(3条、附属書)義務が課されている。〈説明〉は、検証の水準はNPTにおける非核兵器国のものと同等になるよう設計したとしている。禁止条約に否定的な国々からの「条約はNPTを損なう」との批判に配慮し、NPTの特に不拡散体制を損なわないよう手当てしたとも見える。草案はまた、4条で、国が自らの保有核兵器を廃棄した上で条約に加盟する際の検証方法を規定している。この規定の作成に当たっては、同様の過程を経てNPTに加盟した南アフリカのケースが参考にされた。
 この4条と次の5条を、議長は「核活動を保有する国が(条約に)参加できる2つの道筋」と呼んだ。禁止を完全廃棄につなげるとの国連決議71/258のマンデートや3月会期の議論を受けて起草されたという。〈説明〉によると5条は、核兵器を廃棄すると決定した保有国が、禁止条約の締約国会議ないし再検討会議の場で自国の核兵器廃棄計画を交渉・合意し、議定書として禁止条約に附属させることができる旨を定める規定だという(以下、これを「5条プロセス」と呼ぼう)。
 〈説明〉は5条に関連して、締約国会議などでの議定書の追加を可能にする設計を「枠組みアプローチ」と呼び、「こうしたアプローチによって本条約は柔軟性を備え、核軍縮のための確かな枠組みたりえると共に、締約国が条約の機能を発展させられるようにすることで将来にも対応できる」とその効用を述べている。
 ピースデポが「核軍縮枠組み条約」を提案した3主目的の1つは、核兵器の法的禁止が実現した世界において核保有国による核軍縮措置の強化を担保することにあった。議長草案は同様な趣旨で5条プロセスを盛り込んだと考えられる。「禁止」を「廃絶」につなげるためには、禁止条約にそうした趣旨の何らかの条項が含まれる必要があり、その点で5条の意義はよく理解できる。ただ、保有国が5条プロセスを選ぶよう説得する力は、5条自身からではなく、もっと大きな状況から生まれなければなるまい。
 草案で「使用の威嚇」が禁止事項から除かれたのは、核抑止依存国を含む「条約に否定的な国々が、将来加盟する余地を残す配慮とみられる」4との分析もある。第2会期ではこの点や前記の5条プロセスも含めた議論が深まり、条約普遍化への手掛かりが少しでも得られることを期待したい。
 第2会期最初の7日間の暫定日程表(5ページ資料2)によると、会議ではまず条約草案に関する一般的意見交換が行われ、続いて草案を内容ごとに5クラスターに分けて条文の検討が行われる。そして23日午後に翌週以降の日程を決めるとされている。NGOの発言枠としては、初日の午後と各クラスターの最後に15分ずつが確保されている5
 日本政府は、条約草案公表後の岸田外相の発言6からしても、交渉会議第2会期に参加はしないだろう。そのような政府に対し、日本の市民としては、条約成立後に条約への加盟を迫っていくしかない。日本は核抑止依存政策をそのままにして、核兵器そのものを違法とする条約の締約国にはなれないと言える。私たちは「核兵器の違法化」の歴史的意義に立脚して、唯一の被爆国である日本の政策を変える世論と行動を広げてゆくことが求められる。(荒井摂子、田巻一彦)

1 交渉会議公式サイトで閲覧可能。www.un.org/disarmament/ptnw/president.html
2 2条1項と4条1項の「2001年12月5日」という日付は、START-I条約(94年12月5日発効)リスボン議定書に基づき旧ソ連のベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンから核兵器が撤去された日を指す。
3 本誌513号(17年2月1日)など参照。
4 「朝日新聞」17年5月24日。
5 3月会期最終日の議長発言、およびリーチング・クリティカル・ウィルからの情報による。
6 17年5月26日の定例記者会見で、「先ほど申し上げました(交渉参加を控えるという)対応を続けることになる」などと述べている。外務省ウェブサイト参照。www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_000506.html