【被爆二世が国賠訴訟を提起】 「遺伝的影響」を視野に援護策の不在を問う 弁護士 足立 修一
公開日:2017.09.14
国賠訴訟の提訴、第1回弁論
2017年2月17日、広島地裁に、同月20日長崎地裁に、被爆二世の原告らが、被爆二世に対する援護措置がなされていない立法不作為の状態が国家賠償法上違法であることを理由として、国賠請求を提訴した。
広島地裁では、本年5月9日に第1回口頭弁論が行われ、原告2名の意見陳述、在間弁護団長からの意見陳述が行われ、次回は、8月22日に行われることになった。
また、長崎地裁では、本年6月5日に第1回口頭弁論が行われ、原告の意見陳述、弁護団からの意見陳述が行われる予定である。
被爆二世による今回の提訴の意義
被爆者一世に対する援護は、1957年に原爆医療法が制定され、その後、1968年に原爆特別措置法が制定されて、いわゆる原爆二法として、健康診断、医療給付、医療費の給付、健康管理手当の給付などが行われてきた。これらは、1994年に被爆者援護法として一本化された。しかし、これらの法律では、援護の対象となる被爆者は、①直接被爆者、②入市被爆者、③救護被爆者、④胎児被爆者の4類型とされ、被爆二世は対象とされないため援護措置の対象とはされていない。
このような法制度に対し、被爆二世は、援護措置を求める運動を行い、参議院では1989年、1992年に被爆二世を援護対象とする法案が可決されたこともあったものの、1994年の被爆者援護法の制定の際には、援護対象から外された。
被爆二世も、高齢の者は70歳を超えている。これまで援護を求めて運動してきた結果、東京都、神奈川県や大阪府吹田市、摂津市などの一部の自治体で援護措置として医療補助がなされている例もあるが、国全体としては援護策はとられていない。
今回の裁判では、被爆による遺伝的影響があることを明らかにし、被爆の実相を明らかにすることを通じて、被爆二世を「第五の被爆者」として認めさせ、現状では、被爆二世に対する援護措置としては不十分な健康診断しかなされていない状況=立法不作為の状態が国賠法上違法であることを認めさせることを目指す。そして国に被爆二世に対する援護措置を制度化させることを目指している。
訴状の内容
訴状では、被爆者援護の制度の歴史、放射線の健康影響、放射線の遺伝的影響、立法不作為が違法であることなどを主張している。特に、放射線の遺伝的影響については、既に日本遺伝学会などが1950年代から遺伝的影響が存在していることを前提とする意見表明をしていることなどを指摘し、遺伝的影響が存在しうる旨のこれまでの見解を踏まえた援護措置を求めている。また、参議院での被爆二世への援護を認める法案が可決された事実もあるのに、現状で援護措置が存在していないことは、立法不作為であって違法であると主張している。
今後の展開について
国は、去る5月9日の広島地裁での期日までに、提訴後約3か月もあったのに、事実の認否すら行わなかった。これからの訴訟の進行の中で、国は、これまで、放射線影響研究所で被爆二世への遺伝的影響についての研究をしてきたが、現時点までに有意な影響が認められないとの報告書が出されていることを前提とした主張をしてくることが予想される。
この主張に対しては、そもそも、放射線影響研究所の研究方法には問題があったことを指摘するとともに、これまでにヒト以外の生物(ショウジョウバエ)・哺乳類(マウス)では既に遺伝的影響が認められていること、ヒトについても、イギリスの原子力施設で勤務する者の子どもについて遺伝的影響が認められるとの研究報告があること、さらには日本でも両親が被爆者である場合に子どもが白血病になりやすいとの研究結果も存在していること、などを挙げて遺伝的影響を主張してゆく。
今後、放射線の遺伝的影響についての科学論争になることも予想されるが、科学論争を決着させること自体が訴訟の目的ではない。むしろ科学的に解明されない限り、何らの措置もとらないという国の施策の不当性を追及してゆく必要がある。援護策をとらないまま放置し、後に援護すべきだったと結論付けられたときには受け入れ難い結果を招く。したがって、訴訟では「予防原則」の観点から被爆二世の援護措置の必要性を認めさせることを目指してゆく。
今後、被爆による放射線被害の実相を明らかにする作業を続け、被爆の被害を矮小化しようとする流れに抗して、被爆二世の権利が確立するまで闘う所存である。皆様のご支援、ご注目をお願いしたい。