【米軍に情報公開請求】弾道ミサイル防衛能力を持つ米イージス艦の全艦名が判明――最新鋭艦の半分が横須賀に
公開日:2017.09.14
世界中に配備されている米海軍イージス艦のうち弾道ミサイル防衛能力を持つイージス艦の配備港ごとの全艦名を掲載した米軍文書を、ピースデポが初めて入手した。横須賀には最新の能力を持つイージス艦の半数が配備されており、ここから米軍の世界的ミサイル防衛戦略における日本の基地の際立った役割を知ることができる。
公開された米軍資料
現在、横須賀を母港とする巡洋艦、駆逐艦11隻のすべてはイージス戦闘システムを搭載した、いわゆる「イージス艦」であるが、その中のどの艦に弾道ミサイル防衛(BMD)能力が付与されているかに関して米軍資料はなかった。また、米軍全体のBMD能力イージス艦の名前とその世界的な分布を知ることが、横須賀の役割を知る上で重要であった。今回、情報公開請求を行うことで初めてそれらのことが明らかになった。
米軍への情報公開請求は梅林が行った。2015年10月21日に米海軍システム軍(Naval Sea Systems Command)に請求したものが国防総省ミサイル防衛局(MDA)へと転送され、約1年4か月経って17年2月2日に回答を得た。
得られた資料は、①「今日のイージスBMD艦隊:33BMD艦と1陸上イージス・サイト(2016年5月現在)」と題する図表と、②「イージスBMD計画の説明:計画における能力の変遷」と題する図表の2点である。いずれもミサイル防衛局が作成した資料であり、ブリーフィング用に作成した資料のように見受けられる。資料①に16年5月時点における米海軍の全BMD能力艦の配備港ごとの艦名が記載されている。それを整理したのが3ページの表である。
資料①によると、ミサイル防衛局はBMD能力艦を3.6、4.0、9.Cという3つのベースライン(BL)で分類している。ベースラインというのは、米海軍がイージス・システムの改訂バージョンを呼ぶときの名前である。BL0から最新のBL9まで開発されており、BL10が開発中である1(17年5月20日現在)。米海軍がなぜこの3つのBLによってイージス艦のBMD能力を分類しているのかの理由は資料①に説明されていない。
しかし、そのヒントが資料②に示されている。資料②はイージス艦のBMD能力の変遷を図示しているが、その変遷の大きな区分を、オバマ政権が提案したBMD欧州段階的適応性アプローチ(EPAA)2における段階区分に従って行っている。14年の米ミサイル防衛局の報告によると、EPAA第1段階はイージスBMD兵器システム「イージスBMD3.6.1」と迎撃ミサイル「スタンダード・ミサイルSM3ブロック1A」によって達成され、第2段階はイージスBMD兵器システム「イージスBMD4.0.X」と迎撃ミサイル「スタンダード・ミサイルSM3ブロック1B」によって達成される3。資料②の記述はこれとほぼ合致する形でBMD能力の変遷を示している。資料①におけるBMD能力分類も、このようなEPAAの段階に対応して行ったものと考えられる。
イージス・システムとBMD
しかし、3ページの表はベースライン3.6、4.0、9.Cと記されており、これがBMD能力とどのように関係するのかは判然としない。
米MDAは、イージス・システムのBLとは別に、イージス艦のBMD能力の改訂バージョンをバリアントとかケイパビリティ・アップグレード(CU)と呼んでBMD3.6、BMD4.0などと示している(BMD3.6.1のように小数点以下でさらに細分化されたバージョンを示す)。しかし、イージスBLとBMDバージョンの関係は単純ではない。
たとえば、15年6月18日、横須賀に巡洋艦チャンセラーズ・ビルが2度目の母港化のために入港したとき、「ベースライン9」を装備した初の海外母港艦であると喧伝された。しかし、同艦にはBMD能力は備わっていない。このようにイージス・システムBLとイージスBMD能力のバージョンには直接の関係はない。
したがって、ここではイージス・システムとBMD能力との関係を、もう少し基本的なところで解説しておきたい。そもそもイージス・システムとは、米海軍が、軍艦が曝される様々な脅威から軍艦や艦隊を守るため、1システムに能力を集中させて自動的に戦闘を指揮・統制でき、迎撃兵器を制御・誘導できるような総合兵器システムを目指して開発されてきたものである。軍艦が曝される脅威には、敵の航空機の機銃やミサイルや電波妨害兵器、敵の軍艦や陸上基地からの対艦ミサイル攻撃(短距離弾道ミサイルや巡航ミサイル)、敵の潜水艦による魚雷やミサイル攻撃などがある。イージス・システムはこれらの攻撃を撃破するために様々な兵器を装備し、自動的に選択して撃破する。撃破のための兵器の多くは垂直発射装置(VLS)に収められているが、イージス艦には約100本の垂直発射管が装備されている。そこには、対空ミサイル、対潜水艦ミサイル、さらには対地攻撃用の巡航ミサイル・トマホークなどが収められている。ある段階から、BMD用の迎撃ミサイルもこれに加わった。
さらにイージス・システムは、他のイージス・システムや人工衛星とネットワークを組んで能力を高めるようになった。
これらのさまざまな進歩がイージス・システムBLを高度化してきたのである。
このようなイージス・システムに新しくBMD能力が加わることになった。そしてBMD能力自身のバージョン・アップも始まり、イージスBMDバリアントを生み出してきた。
イージス・システムBLとイージスBMD能力バージョンの組み合わせはこのようにして始まった。米海軍によると17年1月26日現在、イージス艦の数は84隻である4。その中でBMD能力をもつ軍艦は33隻に過ぎない。
横須賀とロタ(スペイン)
表に見られるように、昨年5月時点で世界中に配備されていたBMD能力を持つイージス艦で最新型のベースライン9.Cを運用しているのは4隻である。そのうち2隻が横須賀に配備されている。また、9.Cにアップグレード中の駆逐艦が2隻あるが、そのうち駆逐艦ミリウスが今年7月に横須賀に来る予定であり、これで最新型6隻中3隻が横須賀所属となる。つまり、最新のBMD能力イージス艦の半数が横須賀に配備されていることになる。これは米国が日本防衛に力を入れているためではない。北朝鮮の弾道ミサイルから日本やグアムを防衛するBMDシステムが、そのまま中国や北朝鮮のミサイルから米本土を守るBMDシステムの構築と密接に繋がっているからである。
表で明らかなようにBMD能力イージス艦の海外母港は横須賀の他にスペインの軍港ロタにおいても行われている。ロタへの4隻のイージスBMD能力艦の配備はEPAAの第一段階の事業として行われた。しかし、イージス艦の本来の役割と能力においてBMDはその一部に過ぎない。
報道によると、今年4月7日にシリア空軍基地に向けてトマホーク巡航ミサイル59発を発射した米軍艦は、ロスとポーターという2隻のイージス駆逐艦であった。今回の調査によって、この2隻はEPAA計画によってBMD目的でロタを母港とした駆逐艦であることが判明した。この事実は、ミサイル防衛艦は同時に対地攻撃艦でもあるというイージス艦の本性を現している。(梅林宏道、山口大輔)
注
1 米海軍「ファクトファイル:イージス戦闘システム」。 www.navy.mil/navydata/fact_display.asp?cid=2100&tid=200&ct=2
2 EPAAは09年9月17日、ブッシュ政権のBMD構想を変更してオバマ政権によって提案されたものである。第1~第4段階を経て実現する。詳しくはピースデポ「イアブック2009-10版」92-93ページ参照。
3 米国防総省MDA「イージス弾道ミサイル防衛:現状」。www.mda.mil/system/aegis_status.html(14年11月9日にアクセス。現在はアクセス不能。印字コピーを筆者が保存)
4 注1と同じ