核禁止交渉会議、今月末に開会へ 「持たざる小国」による「変化」への挑戦

公開日:2017.07.14

国連総会決議71/258を受けた「核兵器を禁止し完全廃棄に導く法的拘束力のある文書を交渉する国連会議」(以下「交渉会議」)が、今月27日からニューヨークの国連本部で始まる。去る2月16日、この交渉会議の運営を議論する「組織会合」が同地で開催され、議題と3月会期の議事日程、NGO参加のあり方などの輪郭が明らかになった。核廃絶へ「変化を起こす」(アイルランド)ための一歩が、いよいよ踏み出されようとしている。


 交渉会議は「3月27~31日」と「6月15日~7月7日」の2会期からなる(国連決議71/258主文10節)。2月16日の組織会合は、早期に交渉会議の運営に関する1日間の会合を持つことを規定した同決議の主文11節に基づき開催された1
 組織会合の参加国は101か国に上った(ICAN調べ2)。決議71/258の主導国の1つであるアイルランドの代表は「幅広い国々、とりわけ途上国や小さな国々が勇気をもって今日ここに参加して下さったことを歓迎します」と述べた(3~4ページの資料1)。コスタリカのジュネーブ常駐代表であるエレイン・ホワイト大使が議長を務めることが確認され、交渉会議の議題と3月会期の議事日程、会議運営のルール(手続き規則)、そしてNGO参加のあり方をめぐって討議がなされた。ホワイト大使から、議題と3月会期議事日程のそれぞれについて草案が提示され、この日の討議を経て修正され採択された。採択された「議題」と3月会期の「日程表」を、それぞれ資料2、3として4ページに掲げる。

3月に一般討議、6~7月に条約交渉

 議題と3月会期日程とを併せ眺めると、3月会期で全12項目の議題のうち8番目の「一般的意見交換」までを終え、6~7月会期は条約交渉(項目9)から始めて会議報告書の採択(項目11)を終える、という交渉会議の構成になっている。
 組織会合では議題案に関し、交渉の「結果」、すなわち条約そのものの採択についての言及がないとの指摘があった。これを受けて、「項目11(会議報告書の採択)の下に小項目を追加しうるとの理解」がなされたことが注記された。つまり、ここでの「小項目」には「条約」そのものも想定されているのであり、交渉会議で条約採択まで行う可能性も排除されないことが明らかになった。
 なお、3月会期の日程案に関しては、毎会議日の最後に15分ずつ、NGOからの発言の時間帯を設定することが議長により確認されたという。

「多数決」めぐるせめぎあい

 決議71/258は、交渉会議は「当該会議が同意したのでない限りは総会手続き規則に従」う(主文10節)としていた。組織会合では手続き規則案3が示され討議に付された。
 国連決議の審議時から議論のあった意思決定方法について、同規則案は、「会議目的が全会一致で達成されるよう最大限努力する」(規則33)としつつ、「手段を尽くしても全会一致できない場合」には、実質的事項は出席国の3分の2、手続き的事項は出席国の過半数の同意で決定する(規則35)などとしている。これらに関しては全会一致の重要性を強調する発言がある一方で投票という選択肢も保持すべきとする発言もあり、意思決定方式に関する議論は非公式協議に持ち越された模様である。本稿執筆時点では、手続き規則の最終版は交渉会議の公式サイトに掲載されていない。

NGOの参加形態はOEWGと同様

 組織会合での議論の大部分は、NGOの参加のあり方に関するものであった。NGOの参加申請を一国の政府が拒否できるかなどをめぐり意見が分かれたが、協議の末、概ね以下のように決定された4
 すなわち、国連経済社会理事会との協議資格を持つNGOは議長に申し出た上で参加できる。また、協議資格がなくても会議に関連した活動を行っているNGOは、団体の目的や活動を明らかにした上で議長に参加を申請すれば、反対する政府がないことを条件に参加が可能となる(あるNGOの参加を拒否する政府があった場合、当該政府は任意に拒否理由などを開示できる)。なお、NGOには交渉会議の公式会合への参加資格があり前述のように限定枠での発言もできるが、投票権はない。このような参加形態は、2016年OEWG(公開作業部会)などの場合とほとんど違わない5

中国、インドも組織会合に出席

 組織会合に参加した101か国の大部分は決議71/258への賛成国だが、棄権国のうちNATO加盟のオランダなど8か国、また第1委員会・総会全体会のいずれの投票にも欠席した国も5か国が参加している。特に、核保有国の中国とインドが出席した点が注目される。インドは発言も行い、国連決議に自らが棄権したのは検証問題が重視されていないからだなどと述べた。中国については交渉会議への参加を検討しており、オーストリア、メキシコなど「推進派」から考えを聴取しているとの報道もある6。ピースデポが得た情報では、中国の参加は非同盟運動オブザーバー国としての位置を重視するジェスチャーの表れという日本政府筋の見方がある。
 決議反対国で組織会合に出席した所はなかった。米ロをはじめ豪州など多くの決議反対国は交渉会議についても不参加の方針を明らかにしている。日本政府が組織会合を欠席した理由について岸田外相は、交渉に参加するか未定なためと述べた7。岸田外相自身は参加したい意向を示しているが、米国をはじめ核保有国の参加の見通しが立たないことや、北朝鮮の核・ミサイル開発など「安全保障環境の悪化」を理由に、政府全体として慎重に判断するとしている8。首相官邸や内閣官房内(国家安全保障局)に反対の声があるのではとの見方もある。また、ピースデポが得た情報からすると、トランプ政権の人事が未確定なため日本政府が米国の意向判断に手間取っている可能性もある。本稿執筆時点でも日本政府はいまだ参加態度を明らかにしていない。
 日本政府に対しては被爆者団体を含む多くの反核運動団体が、交渉会議に参加して禁止条約締結に向け積極的な役割を果たすことなどを要請している。2月10日には「核兵器廃絶日本NGO連絡会」から田巻ピースデポ代表を含む17人が、同趣旨の外相宛要請書を武井外務大臣政務官に手渡し意見交換した。ピースデポも2月20日、外務省の相川軍縮不拡散・科学部長らに対し、「核軍縮枠組み条約」提案書と共に外相宛の要請書を手渡し、日本政府が交渉会議に参加してそこでの取り組みに「枠組み条約」提案書を活用するよう申し入れた9

全人類の希望と安全のため変化を起こす

 改めて資料3を見ると、「一般的意見交換」のテーマが「原則と目的、前文の要素」「中核的禁止事項」「制度的取り決め」の3つに区分されており、核兵器の禁止のみを規定した簡潔な条約が想定されているようにも思える。ピースデポとしては、本誌でも述べてきたように、「禁止」を確保しつつ、完全廃棄への道筋に少しでも多くの国々を巻き込むべきだと考えており、禁止交渉の「主導国」にもそうした努力を期待したいところである。
 現に、核保有国・依存国をいかに関与させるかという問題意識は「主導国」の間でも共有されているといえる。そのことは、これらの国々の代表部の主催で今月、①条約不参加の核保有国との関係・協力に関する条項、②核軍備撤廃条項、③核保有国の加入条項、をテーマに3回シリーズの非公式の討論会がジュネーブ国連欧州本部で開かれていることからもわかる10。こうした会合の成果が今月27日からの交渉会議での議論にどうつながっていくのかにも注目したい。
 ともあれ、アイルランド代表の言葉を借りれば「全人類」の「希望と安全」のために「変化を起こす」ための「一歩」が、いよいよ踏み出されようとしている。(荒井摂子)


1 組織会合の内容に関する本稿の記述は、主として交渉会議の公式サイト(https://www.un.org/disarmament/ptnw/index.html)、およびリーチング・クリティカル・ウィル(RCW)の報告記事(www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/nuclear-weapon-ban/reports/11377-states-discuss-rules-for-nuclear-ban-negotiations)を基にしている。
2 www.icanw.org/campaign-news/negotiations/
3 RCWサイト内に掲載。www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/nuclear-weapon-ban/documents/draft-rules-of-procedure.pdf
4 A/CONF.229/2017/4、17年2月22日付。
5 交渉会議事務局は、NGOの参加申請方法を説明した文書を発出している(A/CONF.229/2017/INF/2)。団体登録申請は3月3日で締め切られた。
6 17年2月15日付「ロイター」電子版(共同通信)。
7 17年2月21日記者会見。www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_000455.html#topic5
8 17年3月5日付のNHK報道。
9 ピースデポの「枠組み条約」提案の趣旨や内容は本誌513号(17年2月1日)参照。提案書は日本語版と英語版を作成し、関係各国に送付した。提案書の全文と送付先の詳細、および外相宛要請書の全文はピースデポ・ウェブサイトに掲載(www.peacedepot.org/menunew.htm)。
10 ①は3月6日にオーストリア、②は3月10日にアイルランド、③は3月22日に南アフリカの各代表部が、それぞれジュネーブ安全保障政策センター(GCSP)及びジュネーブ軍縮プラットフォーム(GDP)と共催している。www.gcsp.ch/Events/Negotiating-the-Treaty-Prohibiting-Nuclear-Weapons-Cooperation-and-Relations-Provisions