[資料]核安全保障に関する バイデン副大統領の演説(抜粋訳)
公開日:2017.06.01
ワシントンDC
2017年1月11日(水)
(前略)
核抑止力は、第二次大戦以来、米国の防衛の基礎です。他国が米国に対して使用しうる核兵器を所有している以上、米国と米国の同盟国に対する攻撃を抑止するために、米国もまた、安全、確実で効果的な核兵器の保有を維持する必要があります。
そのためにこそ、オバマ政権の初期において、より少ない兵器数でも、また、核実験を行わなくても、米国の保有核兵器が安全で信頼できるものであり続けるよう、保有核兵器を維持し、核関連施設を近代化するための財源を増加したのです。
このような投資を行うことは、米国の核不拡散という目的に沿ったものであっただけでなく、核不拡散を達成する上で不可欠でした。米国の備蓄兵器の能力を確実なものにすることにより、安全を犠牲にすることなく、核兵器の削減を追求できたのです。
そして、米国の計画における、「攻撃下発射手順(敵の核ミサイル発射を確認後、着弾を待たず報復用ミサイルを発射すること)」への依存を減らすようにというオバマ大統領による指示への対応の一環として、国防省は、大統領が様々な核のシナリオへの対応の方法をより柔軟に決定できるよう、計画と手順を変更しました。
2010年の「核態勢見直し(NPR)」の中で、私たちは、他国の核攻撃を抑止することが、核兵器保有の唯一の目的となるような条件を作り出すことを約束しました。この約束に従って、オバマ政権の期間中、私たちは、第二次大戦以来、米国の国家安全保障政策の中で核兵器が持っていた優先度を着実に減らしてきました。その一方で、核兵器に頼ることなく、いかなる敵の攻撃も抑止し打ち負かし、同盟国を安心させるための米国の能力も向上させてきました。
米国の核兵器以外の戦力と、今日の脅威の性質とを考えると、米国が核兵器を先行使用する必要がある、あるいは先行使用が意味をなす、現実性のあるシナリオを思い浮かべることは困難です。オバマ大統領と私は、我が国は、核兵器以外の脅威は核兵器以外の方法で抑止して米国自身と同盟国を守ることができると確信しています。
次の政権は独自の政策を提案するでしょう。しかし、NPRの指示から7年経った今、大統領と私は、我が国の核態勢は十分な進展を成し遂げました。したがって核攻撃を抑止すること、そして必要であれば報復することを、米国の核保有の唯一の目的とすべきであると強く信じています。
核兵器のない世界を実現したいのならば、米国は実現のために先導的な役割を果たさなければなりません。さらに、オバマ大統領が、広島訪問中に切実に強調したように、核兵器を使用したことがある唯一の国として、米国には、そのような世界の実現の先頭に立つべき大きな道義的責任があります。
だから私たちはロシアとの間で、過去20年で最も野心的な兵器削減条約である新START(戦略兵器削減条約)の交渉を行ったのです。1970年代以来、全ての重要な軍縮合意のためにそうしてきたように、私は同条約のために懸命に闘いました。なぜなら、同条約が米国の国民をより安全にするからです。同条約で重要なのは、信頼や善意ではありません。重要なのは、世界で最大の核兵器保有国である米国とロシアの間の戦略的安定とさらなる透明性であり、それは、米国とロシアとの関係が徐々に緊張する中で、より死活的に重要になってきました。
新STARTは、核兵器削減のための厳格な検証と監視のメカニズムを備えています。そして来年、同条約の中心的な制限が達成されたら、両国の戦略核兵器の保有数は過去60年間で最低のレベルまで削減されます。これは、大きな進歩です。しかし、正直に申し上げて、これは私たちの政権が望んでいた進展の度合いには足りません。
過去3年間、ロシアは配備・非配備の保有核兵器のさらなる削減に関する交渉を拒んできました。しかし、この問題で米国が指導力を発揮するのに、ロシアを待つ必要はありません。2009年以来、米国は2,226発の核弾頭を廃棄してきました。そして、この場でいくつかのニュースを皆さんに発表できることを誇らしく思います。昨年、安全を維持しつつ備蓄核兵器をさらに削減できるとの決定を下したのち、オバマ大統領は、昨年中に退役が予定されていた核弾頭に加えて、さらに約500発の核弾頭を廃棄することを決めました。これにより、米国の活性状態の核兵器備蓄数は、現役の弾頭が4,018発になり、約2,800発が破壊される予定です。さらに、私たちは、次期政権に対し、さらなる削減に取り組めるか否かを決定するために包括的な核態勢の見直しを行うよう助言しました。
私が長い間言ってきたように、米国は、自らの力を見せつけるだけでなく、手本の力を示すことによって、もっとも強い指導力を発揮します。私たちの努力により、未来にのしかかる核兵器の脅威が軽減されたのみならず、私たちの後継者が、最終的かつ永遠にこの苦しみの種を世界から取り除くことができる日に向けて前進し続ける方向性を明らかにしました。しかし、私は、私たちの成功を賛美するためだけにここに立っているわけではありません。私たちは、望んだすべてのことを達成できたわけではありませんでした。
私たちは、米国が包括的核実験禁止条約を批准するよう、懸命に働きかけてきました。米国は、20年以上にわたって、核実験を行っていません。米国の核兵器研究所の所長たちは、核実験が盛んに行われていた頃よりも現在のほうが、備蓄核兵器の維持管理を通して、米国の保有核兵器とその信頼性について、より多くのことを知っていると言います。もし米国が同条約を批准すれば、核実験禁止というすでに存在する世界的規範を強化する上で、非常に大きな助けとなることでしょう。同条約批准の試みは毎回上院で否決されてきましたが。
私は、レーガン大統領や2人のブッシュ大統領が行った決定を常に支持したわけではありません。しかし、私の上院議員としての36年間に、共和党出身の大統領が実現しようとした軍備管理措置を改善し、議会を通過させるのを何度も助けたのはただ一つの単純な理由によるものです。なぜなら、核安全保障は、党派間の駆け引きに使うには、米国と世界にとってあまりに重要すぎる問題だからです。
私たちは、もはや毎日核対決におびえながら暮らしているわけではありませんが、今日私たちが直面している危険もまた、その対処には超党派の精神を必要としています。おぼろげに見え始めている諸課題は、次期大統領と次期副大統領の指導力のみでなく、議会の指導力をも必要としています。
国際社会の大多数が、核兵器を用いる国や人が増えれば世界がより危険になることを理解している一方で、いまだに兵器の保有数を増やし、新しいタイプの核兵器を開発しようとする人々がいます。北朝鮮だけでなく、ロシア、パキスタンやその他の国々も、ヨーロッパ、南アジア、あるいは東アジアの地域紛争で核兵器が使用されうるリスクを増やすだけの、安全保障とは反対の動きをしています。議会との協力のもと、次期政権はこれらの危険に対処していかなければならないでしょう。そして、核兵器の役割を低減するという世界的なコンセンサス形成を先導し続けていくことを願いたいと思います。
とりわけ、次期政権は、ここ数年間損なわれてきたロシアとの戦略的安定を改善するための最善の方法を決定しなければならないでしょう。米国が核兵器に頼らない安全保障ドクトリンにシフトしてきた一方で、ロシアは核兵器への依存をより強める方向に動いています。このロシアの動きは、米軍の技術的進歩とロシア軍より優れた通常戦力に対するロシアの懸念といくらか関連があります。
しかし、世界における核の危機を高めるのは、戦略の変化なのです。さらに、ロシアは現在、発効後30年近くが経つ中距離核戦力全廃条約に違反しています。今までのところ、ロシアは、同条約を再び遵守することについて、あるいは戦略的安定と将来の軍縮についての議論を始めるために、米国と建設的に関わることを拒否しています。次期政権は、これらの難しい安全保障上の課題に対処していく中で、予算上の制約を考慮した上で、妥協を必要とするような、米国の安全保障のための決定を行わなければならないでしょう。もし、将来の予算が私たちの行った選択を覆し、冷戦時代に立ち返るような核兵器増強のためにさらなる財源をつぎ込むとしたら、それは米国と同盟国の日々の安全保障を強化する上で何の役にも立たないでしょう。
そうすることは、サイバーセキュリティ、宇宙、米国の通常戦力の健全性と近代化といった、21世紀の安全保障上の必要を満たすのに欠かせない分野に振り向けることのできる資源が減少することを意味するでしょう。また、二度と使われないよう神に願っている兵器である核兵器の理論上の力を、米国の軍隊が毎日使用している通常兵器より優先するというリスクを冒すことになります。判断ミスによる核戦争のリスクを高め、数十年に渡り米国民を守ってきた信頼醸成措置と安全保障上の合意を損なうというリスクを冒すことになります。
さらに、世界における米国の道義的な指導力と同盟国の中での米国の地位を低下させ、国際社会とともにその他の米国の目標を達成する能力を損なうというリスクを冒すことになります。私たちがこの議論を進めるにつれて、現実主義という名のもとに、核軍備競争を推奨する人々が出てくるでしょう。私にはわかります。これまでも常にそういう人々がいましたから。しかし、そうした人々の主張は、今日、さらに説得力を失いつつあります。今日の世界では、最も深刻な核の脅威は先端技術を持つ外国の政府によるものではなく、冷戦時代の遺品をスーツケースに携えて、世界中のあらゆる大都市にむかうテロリストによるものなのですから。
8年前のプラハにおける最初の演説で、オバマ大統領は、こう言ってこの問題の本質を捉えました。「私たちはより多くの国家や人々が究極の破壊手段を所有する世界に生きることを宿命づけられているのだから、核兵器の拡散を止められないし、抑えられないという人もいる。このような宿命論は私たちを死に至らしめる敵である。なぜなら、核兵器の拡散が避けられないと考えることは、ある意味で
は、核兵器の使用は避けられないと認めることになるからである。」
過去8年間に渡り、私たちはこの宿命論を打ち負かそうとしてきました。私たちは、避けられないとあきらめませんでした。私は、国民全体で、米国は核兵器のない世界の平和と安全を追い求め続けなければならないと信じています。なぜなら、それが悪夢のシナリオが現実になることを阻むため私たちが持っている唯一の保証だからです。
(後略)
(訳:ピースデポ。原文はこちら)