【米トランプ政権発足】世界秩序を語らぬトランプ、対照的な習近平 米「核態勢の見直し」に着手
公開日:2017.06.01
1月20日、ドナルド・トランプ氏が米国の新大統領に就任した。その就任演説は新大統領の「米国第一」の主張のみが突出した内容に終始し、世界との関係をほとんど語らなかった。その2日前、ジュネーブの国連欧州本部で中国の習近平国家主席が長い演説を行った。そこで強調されたのは、「主権平等」の原理に基づく世界秩序の構築であった。一方、トランプ大統領は1月27日に発した「軍再建覚書」で、「力による平和を追求する」という目的のもとで「核態勢見直し」や「弾道ミサイル防衛見直し」を国防長官らに指示した。
トランプ演説と習近平演説
1月20日、米共和党のドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任した。選挙キャンペーン期間の言動から予想されたことであるが、トランプ大統領の就任演説は、極めて内向きで、視野の広がりを感じさせないものであった。世界最大の経済大国であり、世界の隅々まで軍を展開する唯一の軍事大国であり、世界に強く関与してきた米国が、ひたすら「米国が第一」と言うことの異常さを強く印象付けた。しかも、大統領はその異常さに気付いていないようであった。対米関係の現状維持を必死に求めようとする日本のような国も加わって、世界の前途には大きな危険が横たわっている。
トランプ大統領の演説の2日前、中国の習近平(シー・チンビン)国家主席が、ジュネーブの国連欧州本部で演説をした。この演説はトランプ演説と極めて対照的であった(2ページ資料1に抜粋訳)。さまざまな疑義や異論を触発する内容であるが、重要なのは急速にグローバルなプレーヤーになりつつある中国が、世界秩序に関するビジョンを詳細に語ったことである。トランプがやらなかったこと、あるいはやれなかったことを、習がそれよりも早いタイミングでやったことに注目したい。米国の凋落傾向が印象付けられた。
習は言う。「公正で平等な国際秩序を確立することが、人類が常に奮闘してきた目標である。」「主権平等は過去数世紀にわたって国家間を律する最も重要な規範であり、国際連合及びすべての国際機関によって守られてきた核心的な原則である。」西欧によって支配された歴史の記憶に立ち、かつては自らを第三世界と位置付けて非同盟運動に共感してきた中国が、今、これらの言説をどのようなスタンスで述べているのかが問われるであろう。中国には米国の世界支配に異議を唱える立場と、近隣の弱小国から異議を唱えられる立場に共通する世界秩序論が求められている。(梅林宏道)
トランプの「軍再建覚書」
1月20日から2月9日までの間にトランプ大統領は大統領覚書(Presidential Memorandum)を26回発している。
1月27日付「合衆国軍再建に関する大統領覚書」は、国防長官と行政予算管理局(OMB)局長に「軍再建」のためのアクションを指示したものだ。全訳を3ページの資料2に示す。「覚書」はまず、「力による平和を追求するため、合衆国軍を再構築」するという基本方針を示し、なすべき行動として以下を挙げる:
1) 軍の即応態勢の包括的評価と必要な改善計画の作成。
2) 国家防衛戦略(NDS)の作成。
3)「核態勢見直し」(NPR)への着手。目的は、核抑止力を「近代化され、強固で、柔軟で回復力があり」、「21世紀の脅威を抑止し同盟国に安心を与えるよう適切に調整」されたものにすることに置かれる。
4) 「弾道ミサイル防衛見直し」(戦域、本土両面にわたる)に着手する。
NPRはクリントン(94年)、ブッシュ(01年)、オバマ(10年)に次ぐ4回目となる。
ブッシュのNPRは「21世紀のための戦略態勢を練り上げる」ことを目標に掲げ、バンカーバスターなどの新兵器の開発に道を開こうとした。トランプのNPRはどのような機軸を打ち出すものになるのだろうか。そしてオバマ政権の国際協調に基づく軍縮や、「核なき世界」へのビジョンと行動計画(5ページの記事)にどのような「再建」の大鉈を振るうのだろうか。(田巻一彦)