沖縄・普天間移設辺野古新基地建設に各地から土砂を搬入   

懸念される環境破壊・汚染と外来生物持ち込み

公開日:2017.04.13

埋め立てに各地から大量の土砂

 沖縄県名護市・辺野古の新基地(普天間代替施設)は、辺野古側のサンゴ礁が続く浅瀬と大浦湾側の深い入り江の約160ヘクタールを埋め立てて建設される。このために、東京ドーム16.6杯分相当の土砂を、沖縄を含む西日本各地から採取、供給することを国は計画している。
 2013年春、仲井真弘多沖縄県知事(当時)の再三にわたる公開請求により、沖縄防衛局が示した土砂の供給計画(付属図書10「埋立に用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書」)によれば、岩ズリ1,644万m3、山土360万m3及び海砂58万m3の計約2,062万m3の土砂が供給される。土砂の7割強は沖縄県外の香川県、鹿児島県などの西日本一帯から、山土及び海砂は沖縄本島から採取・搬入される1。ここで「岩ズリ」とは、採石の残余として発生する砂、泥及び小石の混合物で、多くは採石場に積み上げられている。

生物多様性国家戦略

 12年9月28日、「生物多様性国家戦略2012-2020(以下、「国家戦略」)」2が閣議決定された。「国家戦略」は、生物多様性条約(CBD)3及び生物多様性基本法に基づき、「生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国の基本的な方針」を示したものである。
 CBDは92年6月、リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」(UNCDE)(地球サミット)の成果として、署名開放された。日本は92年6月に同条約に署名したのにつづいて、95年10月に第1次生物多様性国家戦略を策定し、08年6月にはCBD推進のための生物多様性基本法が施行された。さらに10年10月に名古屋で開催されたCBD第10回締約国会議(COP10)では,11年以降の新たな世界的目標として「生物多様性戦略計画2011-2020(愛知目標)」4が採択された。これらを背景として策定されたのが12年の「国家戦略」である。
 「国家戦略」には、次の4つの「生物多様性の危機」が示されている。
 第1:開発など人間活動による危機
 第2:自然に対する働きかけの縮小による危機
 第3:外来種など人間により持ち込まれたもの   による危機
 第4:地球温暖化や海洋酸性化など地球環境の   変化による危機
 辺野古埋立てでは、岩ズリや海砂などの採取が第1の危機、辺野古への土砂の持ち込みが第3の危機にあたる。懸念される問題を以下に整理する。

採取地の大半は生物多様性「重要海域」

 前記「愛知目標」では、各国は20年までに、少なくとも海域の10%を海洋保護区として保全することとされている。これを受けて環境省は、16年4月22日、海洋保護区設定の基礎資料となる「生物多様性の観点から重要度の高い海域」として沿岸域270か所、沖合表層域20か所、沖合海底域31か所を抽出したと発表した5。
 これによれば、岩ズリ搬出予定地の小豆島、黒髪島、椛島(五島)、御所浦(天草)、奄美大島、徳之島、山土及び海砂搬出予定地の沖縄県の本部、国頭などが重要海域に面している。
 各地の採石場では、すでに山の半分が切り崩され、岩盤が露出している。例えば奄美市住用町の市(いち)集落では、大雨が降ると、付近の海には大量の土砂が流入し、岩盤に土砂が付着し、かつてトコブシやウニが無数に生息していた海は、生物の影を見ることがないと言われる。岩ズリ採取地ではどこも程度の差こそあれこのような環境破壊が起きているはずである。これは、土砂採取自体が、生物多様性に危機をもたらすことを示唆している。
 

辺野古への外来種持ち込みによる危機

 亜熱帯である辺野古に搬入される岩ズリの多くは、温帯域で採取されたものである。したがってそこには辺野古とは異なる生態系が展開されている。また同じ亜熱帯でも例えば沖縄本島と奄美大島では生態系は異なる。
 したがって辺野古に大量の岩ズリを持ち込めば、生態系に有害な外来種が侵入する可能性がある。事実、候補にあげられている岩ズリ採取地周辺では、アルゼンチンアリ(山口県など瀬戸内海一帯)、ハイイロゴケグモ(奄美大島)など有害な特定外来種が混入している可能性があり6、少なくとも外来種侵入防除対策が不可欠である。防衛省は「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会」7の助言指導を受けつつ、土砂供給業者に調査させるなどして適切に対処するとしている8が、侵入防除対策は未だ策定されていない。この現状を憂慮した沖縄県は、15年7月10日、「公有水面埋立事業における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例」9を制定、15年11月1日に施行した。同条例は、事業者に外来生物の有無の調査結果を含む事前届け出を義務づけるとともに、県による立ち入り調査権を定めている。
 一方、国際自然保護連盟(IUCN)は、16年8月31日、ハワイでの第6回世界自然保護会議において辺野古埋立てに言及した「島嶼生態系への外来種の侵入経路管理の強化」決議10を採択した。

 以上のように、新基地建設のための土砂の採取と搬入には、採取地、搬入地(辺野古)に著しい環境汚染・破壊と生物多様性の危機をもたらす可能性がある。少なくとも防衛省が外来種侵入防除対策を策定し、それが「国家戦略」を所掌する環境省や第三者的な専門家のチェックを受け了承されるまでは、土砂の採取・搬出入を前にすすめることは許されない。(湯浅一郎)
 
 注
1 採取候補地は以下の9地区15か所である:瀬戸内地区(小豆島、香川県)、門司地区(黒髪島、向島(山口県)、北九州市門司(福岡県))、五島地区(椛島、長崎県)、天草地区(御所浦、熊本県)、佐多岬地区(南大隅、鹿児島県)、奄美大島地区及び徳之島地区(ともに鹿児島県)、本部町地区、国頭地区(沖縄県)
2 www.env.go.jp/press/15758.html
3 93年5月発効。15年5月現在、194か国とEU及びパレスチナが締結。米国は未締結。
4 www.biodic.go.jp/biodiversity/about/
5 www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/index.html
6 たとえば那覇空港第2滑走路事業のために奄美から搬入された石材の採石地からは、ハイイロゴケグモが発見されている(「琉球新報」16年3月25日)。
7 www.mod.go.jp/rdb/okinawa/07oshirase/chotatsu/kankyoukansiiinkai/index.html
8 16年4月26日、第190回通常国会、衆議院・沖縄及び北方問題に関する特別委員会における答弁(質問者 近藤昭一(民進党))。
9 www.pref.okinawa.jp/site/gikai/documents/giinnteisyutu01.pdf
10 日本自然保護協会ウェブサイト。www.nacsj.or.jp/katsudo/henoko/2016/08/iucn-6.html