【資料】アシュトン・カーター米国防長官の演説 核兵器廃絶国際デーの9月26日に米ノースダコタ州マイノット空軍基地で行われた演説の抜粋訳。

公開日:2017.04.14

国際核兵器廃絶デーである9月26日、アシュトン・カーター米国防長官はICBM(大陸間弾道ミサイル)ミニットマンIIIと戦略爆撃機が配備されているノースダコタ州にあるマイノット空軍基地を訪れ、基地の軍人に向けて核兵器事業の重要性について演説した。核抑止は、米国やその核の傘に依存する同盟国を守るためだけでなく、それにより同盟国が核開発に向かうことをとどめていると主張している。とりわけロシアと北朝鮮の核兵器に対する姿勢を疑問視し、これらの脅威に備えるために、米国が十分な核戦力を保持することが安定をもたらすとする。しかし冷戦後、約25年にわたり核兵器事業に十分な投資がされなかったことから、今、老朽化した核兵器の更新が不可欠となり、核兵器事業への投資を増額せねばならなくなっていると主張している。米国の核兵器政策の現実の姿を知るための好資料として翻訳した。

(前略)
 こんにち、諸君と諸君の任務は多くのレベルにおいて重要な役割を果たしている。戦略レベルにおいては言うまでもない。諸君はアメリカ合衆国と同盟国への大規模な核攻撃を抑止している。諸君のおかげで、我々は潜在的な敵国が通常兵器の攻撃に失敗してもそれ以上にエスカレートさせないと確信することができる。
 同盟国が厳しい戦略環境にさらされ、彼らが核兵器を開発することは技術的には容易な場合でさえ、諸君は同盟国に我々の拡大抑止の保証は信頼できることを確信させ、同盟国の多くに核開発を思い止まらせている。
 そしてもし抑止が崩れた場合には、諸君は大統領にアメリカと同盟国が目的を達成するための選択肢を提供する。オバマ大統領は、諸君と同じように最も真摯な責任感をもってそれを遂行するであろうことを私は知っている。すべては、何よりもまず核兵器が使用されるリスクを減じるためだ。
(略)

核抑止の本質は不変だが、態様は変わった

 ある意味で核をめぐる状況は変わった。我々は新型の核兵器や運搬手段を過去25年間生産していない。しかし他の国々は生産している。同時に、状況のもうひとつの断面をみれば、アジア、中東、NATOのわが同盟国は核兵器を作らなかった。したがって我々は核抑止力を維持し続けなければならない。
 ロシアは長年にわたって核兵器大国であり続けてきた。しかしロシアの近年の武力による威嚇や新型核兵器の生産をみれば、ロシア指導部が、戦略的安定性への誓約や、長年かけて定着してきた核兵器使用に対する嫌悪感、冷戦期の指導者たちが核兵器をちらつかせることに関して示した十分な慎重さを、尊重しているのかどうかは大いに疑問だ。
 一方、北朝鮮の核とミサイルによる挑発は、多様かつダイナミックな核の脅威が依然として実在することを示している。よって我々の抑止力は信頼に足り、地域の同盟国に拡大されるものでなければならない。それは先ず、諸君がマイノットから差しかけている抑止の傘、我々の空軍の通常兵器による支援部隊、さらには同盟国に対する攻撃を抑止するために朝鮮半島で週7日24時間体制で警戒にあたっているわが部隊に始まる。それはまた、我々が北朝鮮の脅威に向けられたより強固なミサイル防衛を構築しつづける理由でもある。我々は地上配備型迎撃ミサイルをアラスカとカリフォルニアに配備し、韓国との間で高高度防衛システム=THAADを配備することに合意した。しかも、これらすべては、米国や同盟国へのいかなる攻撃も撃退されるというだけでなく、いかなる核兵器の使用も圧倒的で効果的な反撃を受けるという誓約によって裏付けられている。
 ロシアと北朝鮮の2国は、互いに様相は大きく異なるが、核を巡る状況の進展の中で際立った国々である。他国に目を転じれば、例えばインドは一般的には核技術に関して責任あるふるまいを示している。中国もまた、質的・量的に核兵器を増強させているが、核の分野での行動は洗練されている。イランの核への野望は制約を受けてきており、彼らの活動の透明性は昨年の核合意により向上している。合意の履行が続く限り、イランの核兵器の保有は検証可能な形で防止されるだろう。私が挙げたい最後の例は、核兵器が緊張の歴史の中で複雑化しているパキスタンである。パキスタンは米国に対する直接的な脅威ではないが、我々はパキスタンとの間で安定性を確保するために協議を行っている。
 核兵器が存在しない場所について言及しておくことも重要だ。つまり、オバマ大統領の核保安サミットや、私が1990年代に従事していたナン・ルーガー協調的脅威削減プログラムといった核の安定性、安定な同盟関係、核不拡散や軍備管理努力のような分野の成功事例が、核兵器の拡散を阻止し、旧ソ連にあった緩んだ管理の核兵器の危険が脅威になることを防ぎ、核テロの可能性を遠ざけた。これらは全ての大国が引き受けるべき政策課題である。これらの努力の結果、核兵器が拡散する可能性があったにもかかわらず、それが防がれた場所が世界中には多くある。
 冷戦終結以来変化してきたものがある一方で、核抑止の本質は変わっていない。2016年においてさえ、抑止は依然として、潜在的な敵国の感じ方、すなわち彼らが我々の意思と行動能力について何を見て、結果として何を信じているか、に依存している。このことは潜在的敵国の感じ方が変化するのに応じて我々の戦略と行動も変化しなければならないことを意味している。実際、我々の抑止の態様は静的ではありえない。抑止力は、競争や攻撃を招くよりはむしろ核使用の抑制を強固にして戦略的安定性を保ち続けながらも、脅威の変化に適応しなければならない。これが重要である。なぜなら、そうすることによって抑止力の強化は核戦争の敷居を下げるのではなく、それを高いものにするからである。
 しかしながら今日、次のような現実が厳然として存在する。核兵器が、冷戦期の古典的な大規模応酬において使用されるとは考えにくい。むしろ、例えばロシアもしくは北朝鮮が、危機的局面に際して通常兵器で優位な敵国に、後退や同盟国を見捨てることを強いるために小規模ながら前例のない恐ろしい攻撃をかけるという、愚かしい最後の手段として核兵器が使用される可能性が高い。我々はそのようなことを起こさせてはならない。それゆえに、抑止力を持続し戦略的安定性を保ち続けるような新しい方法を編み出し運用するため、我々は両地域の同盟国と協働している。
 大西洋を挟んで、我々はNATOの核教本を刷新しつつある。通常抑止力と核抑止力をよりよく統合し、戦闘と同じように計画や訓練を確実に行えるようにし、ロシアが、NATOとの紛争において核使用から利益が得られると考えたり、誰かが言うように「エスカレートしないようにエスカレートする」試みをすることがないようにするためである、言うまでもなく、そもそも我々はそのような紛争を求めていない。我々が求めているのは紛争の防止である。信頼に足る反撃オプション、つまり抑止を目的としたオプションとして、核・非核両用の航空機、B-61爆弾、空中発射巡航ミサイルを保有することによって、我々は他の国による核兵器の限定的な使用が起こりにくいようにしている。
 一方、太平洋の向こう側で、我々はアジアにおける核抑止への挑戦に対処する姿勢であることを明確にするために、同盟国である日本、韓国と抑止に関する公式の対話を行っている。諸君の仕事や、諸君が提供する能力がこれら対話の中での共通の話題であることを諸君に知って欲しい。なぜならそれらは同盟国への核攻撃を抑止する重要な役割を果たしているからである。それが、この6月、3か国が抑止力維持を目的に、共同で弾道ミサイル警戒演習を実施した理由でもある。

抑止力への投資を増額せねばならない

 そして、ここ米国においては、我々は核の三本柱の柱の全てが経年によって老朽化しないような方策を取ることで、抑止力を持続させている。これはオバマ大統領が2009年にプラハで「核兵器が存在する限り、米国はいかなる敵をも抑止し、我々の同盟国を防衛することを保証する、安全、安心で効果的な核兵器を維持するだろう」と語って明らかにした政府の政策の一つである。
 この誓約は大統領が2010年に核態勢見直し、2013年に核使用指針を発表した際にも再確認された。そしてこの誓約は大統領が7年半の間に議会に提出したすべての防衛予算にも反映されている。今年1月、2月に発表された2017会計年度の最新の予算も然りである。
 このことに関連して、我々は今、数十年に及ぶ核抑止力への過小投資を是正するプロセスを開始している。数十年というのは誇張ではない。なぜならそれは、核兵器事業への投資が劇的に落ち込んだ冷戦終結時まで遡ることができるからだ。それ以来過去25年にわたって我々は基本的な維持と運用への控えめな投資のみを行ってきた。そしてそれが十分でなかったことが明らかとなっている。なぜなら核兵器が老朽化するにつれ、それを維持し続けるために、諸君のような有能な人材や国防総省、エネルギー省の人材に余計な苦労を掛けなければならなかったことを意味していることが、今や我々にはよくわかっているからである。これが、我々が3本柱を維持するためだけでなく、諸君が必要とする資源、諸君がキャリアを発展させる機会、そして諸君の成功を可能にするマネジメント体制と環境、といったものを確保するために今、投資をしている理由である。
 2017年、我々は総額190億ドルを核兵器事業に投資する。それは向こう5年間にわたる投資計画1,080億ドルの一部である。それは、核戦力と関連する戦略的指揮・統制・通信・情報システム――要員、装備、車両、整備への予算の増額から我々の爆撃機部隊などを維持する技術的な努力にまでわたる――を維持し再構築するためのものである。
 周知のように、これらの投資は、老朽化した戦力への投資が過小であるとの認識を述べた2014年「核兵器事業見直し」の勧告を履行し続けていることを反映している。その結果、我々は改善のために過去2年間で約100億ドルを投資した。
(略)
 加えて、大統領の予算は核抑止力を維持するために必要とされる能力が、時代遅れにならないことを保証する我々の計画の第一段階に満額の予算をつけている。これには旧式のICBMを整備費用が少なくて済む新型に更新すること、老朽化した空中発射式巡航ミサイルをより有効な長射程スタンドオフ兵器に更新することなどによって、戦略爆撃機がより先進的な防空システムに対しても有効であるようにすること、核・非核両用の航空機部隊のF-16をF-35とB61-12重力落下式爆弾に更新すること、及びオハイオ級弾道ミサイル潜水艦の後継艦を建造することを含む。
 このことが重要であることには多くの理由がある。その理由のために、この国が向こう数年間に正しい投資を行うものと私は確信している。
 第1に、もし我々がこれらのシステムを更新しなければ、単純にそれらはさらに老朽化し、危険になり、信頼できなくなり、効果を失う。我々の核兵器運搬システムの大部分は当初想定された寿命を越えて、既に何十年も延長されているというのが事実だ。したがって我々が迫られている選択は、これらプラットフォームを更新するか維持するかではなく、更新するか失うかというものなのだ。それは我々の抑止能力に対する信頼が失われることを意味する。今日の不安定な安全保障環境の中で、我々にそれはできない。
 第2に、これらの投資は通常、単純に核の近代化と呼ばれるが、この呼び方は抑止力の維持を意味するという限りにおいて正しい。これらの投資は抑止力の性質やそれがいかに機能するかを変更するものではない。詰まるところ、誰もそんなことはできないのである。
(略)
 もちろん、このためには費用がかかる。しかし核兵器事業に投入される資金は、かかったとしても国防費全体の中で比較的小さい割合であることを、多くの人は認識していない。老朽化したプラットフォームを更新するに際しても、我々はこの事実が変わるとは思わない。
 詰まるところ、これは我々の安全保障の根本の維持に関わることなのだ。あまりにも長い年月にわたって十分に投資されなかった結果に対して、国家としてなさねばならない投資なのだ。なぜなら21世紀において核抑止力を維持することは死活的に重要なのだから。
 もちろん、この任務が確実に成功するように投資するときにおいても、我々は、人々が確実に成功するように、諸君が確実に目標達成できるように投資を続けるであろう。なぜなら我々の抑止力は、適切な人々――諸君のような人々、我々が頼れる人々――我々の核事業に人員配置を行い、装備を整え、運用し、警備し、支援するのに適切な人々を有していなければ信頼に足るものにならないからだ。しかも今日だけでなく、将来にわたって。
(後略)    
    (訳:ピースデポ)
原文:
www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/956079/remarks-by-secretary-carter-to-troops-at-minot-air-force-base-north-dakota