<資料>OEWG報告書
公開日:2017.04.14
多国間核軍縮交渉を前進させるための公開作業部会(OEWG)報告書
2016年8月19日採択
Ⅰ.はじめに(略)
Ⅱ.組織的事項(略)
Ⅲ.作業部会の手続き(略)
IV.実質的議論
A.全般的な意見交換
19.作業部会は、核兵器のない世界の達成と維持に向けた決意を再確認した。これは、多国間核軍縮交渉の前進における普遍的な目標であり続けている。作業部会は、多国間核軍縮交渉を前進させるためには、包括的、包含的、双方向的、かつ建設的な方法で、核兵器関連の問題を議論することが重要であると強調した。これに関して、作業部会は、2000年NPT再検討会議で核兵器国が行った、核兵器の完全廃棄を達成するとの明確な約束を想起した。
20.作業部会の作業は、核兵器の存在が人類に呈している脅威とあらゆる核爆発がもたらす壊滅的な人道上の結末に対する深刻な懸念に下支えされていた。これらの壊滅的な人道上の結末のリスクは核兵器が存在する限り継続する。核兵器の人道上の影響に関する意識の高まりと十分な裏付けのある発表は、核兵器のない世界に繋がるような、すべての国家による緊急かつ必要な行動を促すものである。また、作業部会は、すべての国家がいかなる時も、国際人道法を含む、適用可能な国際法を遵守することの必要性を再確認した。
21.こうした議論と、核兵器の人道上の影響に対する意識の高まりを背景に、多国間核軍縮の進展が遅いことが懸念をもって留意された。(後略)
22.(略)
23.作業部会は、核不拡散条約(NPT)第6条がすべての加盟国の義務、とりわけ核軍縮に関連した効果的な措置について誠実な交渉を進める義務を確立していることを想起した。(後略)
24.作業部会は、NPTの文言に同条約第6条の履行のために追求されるべき特定の効果的措置に関連して具体的な指針が示されていないことに留意した。作業部会は、条約第6条に含まれる核軍縮義務の履行のため、効果的な法的措置の立案が求められてきたことに留意した。
25、 26.(略)
27.一定数の国は、国際的な安全保障環境、現在の地政学的な状況、既存の安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割が核軍縮のためのいかなる効果的措置の追求においても考慮されるべきであると強調した。これらを考慮しないアプローチは、核保有国ならびに自国の安全保障ドクトリンを核兵器に依存している国の参加を獲得することはできないとこれらの国は主張した。これらの国は、保有核兵器のさらなる大幅削減を促進するための条件作りの手段として、信頼醸成措置の重要性に留意した。これには国家間、とりわけ核兵器を保有する国家間の対立や緊張を緩和するための努力が含まれる。
28.他方、多くの国は、核兵器の問題に関連しては、国家の利益よりも、集団的な安全保障(collective security)が優先されるべきであると強調した。これらの国は、国家安全保障と集団的な安全保障の間になんらの矛盾も存在しないと主張した。これに関連して、核兵器が人類全体にもたらす結末や核兵器が継続して存在することのリスクと脅威について人道イニシアティブが検討を重ねてきたことが留意された。また、それが国境を越え、グローバルに影響しうることから、核兵器のリスクはあまりにも高く、核兵器が国内に存在することはそこに住む人々の防護や安全保障を強化するどころか、むしろ低めるとの見解が述べられた。
29.作業部会は、核兵器のない世界を達成する最良の機会はすべての核兵器保有国の関与を通じたものになるだろうと考えた。
30.一定数の国は、核兵器の総数の削減、安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割の低下、および消極的安全保証の範囲拡大のために核兵器国が取った諸措置に留意した。
31.しかし、多くの国は、そのような諸措置が核兵器の役割の低下に部分的にしかつながらず、社会全体を危険にさらす能力については手付かずのままであることに留意した。核兵器国が自国の保有核兵器の質的な改良や近代化に引き続き邁進しており、核兵器依存を継続していることに懸念が示された。また、核兵器の使用や使用の威嚇に関連した規範の弱体化が見受けられることにも懸念が示された。
32.よって多くの国は、核兵器の容認を前提とした政策や実践に対する国際社会や世論の姿勢を変えることなどを通じて、核兵器の価値を低下させることから核兵器を忌むべきものにすることに焦点を移していく必要性を強調した。このような変化は、核兵器の禁止及び廃棄のための人道の誓約とも合致する。この誓約を行った国は、核兵器の容認できない人道上の結末、環境への影響、その他の関連するリスクの観点から、核兵器を忌むべきものとし、禁止し、廃棄することを誓約している。
B. 核兵器のない世界の達成と維持のために締結が求められる具体的かつ効果的な法的措置、法的条項及び規範
33.作業部会は、核軍縮のためのいかなる効果的な法的措置の立案も、核軍縮・不拡散体制の強化と、NPT第6条の履行を目的とするべきであり、それらは同条約を補完し強化するものでなければならないことを強調した。核兵器のない世界の達成と維持のために締結が求められる具体的かつ効果的な法的措置、法的条項及び規範を議論する上で、多くの可能なアプローチが検討された。
34.過半数の国(a majority of States)1は、2017年に、国連総会において、すべての国家、国際機関、市民社会に開かれた形で、核兵器の完全廃棄につながるような、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の交渉を開始することに支持を表明した。この法的文書は、一般的禁止と義務を確立することに加え、核兵器のない世界の達成と維持に対する政治的な誓約を確立するものである。市民社会の代表もこの見解に支持を示した。
35.そのような法的文書が含みうる要素にはとりわけ以下が含まれる。(a)核兵器の取得、保有、備蓄、開発、実験、生産の禁止。(b)核兵器のすべての使用への関与の禁止。これには核戦争計画への関与、核兵器の目標設定における関与、核兵器の管理要員への訓練が含まれる。(c)国家の領土内への核兵器持ち込みの容認の禁止。これには核兵器搭載船舶が港湾や領海に入ることを認めること、国家の領空に核兵器搭載航空機が飛来することを認めること、国家の領土内における運搬を認めること、国家の領土において核兵器の配置や配備を認めることが含まれる。(d)核兵器活動に対する融資や、IAEAの包括的保障協定が適用されていない国家に対する特殊核分裂性物質の提供の禁止。(e)条約が禁止するあらゆる活動に対する直接的または間接的な援助、奨励、勧誘の禁止。(f)核兵器の使用及び実験の被害者の権利を認め、被害者への支援提供と環境修復を誓約すること。このような文書に含まれる要素や条項については交渉の対象になることが留意された。
36.核兵器を禁止する法的拘束力のある文書は、それが核兵器の廃棄に関する措置を含まず、その代わり不可逆的、検証可能かつ透明性のある核兵器廃棄のための措置を将来的な交渉課題として残していることから、核軍縮に向けた中間的あるいは部分的な措置となる。それは、核兵器を徐々に忌むべきものにすることにも貢献する。このような文書を支持する諸国家は、これが交渉開始や発効のために普遍的な支持を必要しないことから、直近の行動として最も実行可能であるとの考えを持っていた。決議68/32に基づき、2018年までに開催される国連ハイレベル国際会議がこれらの交渉の進捗を検討すべきであることが提案された。
37.多くの国は包括的な核兵器禁止条約(a comprehensive nuclear weapons convention)を支持した。これは一般的義務、禁止事項、そして時間制限を伴う不可逆的で検証可能な核軍縮に向けた具体的な取り決めを明示するものである。これらの国家は、特定の時間枠の中で核兵器を完全に廃棄するための段階的計画が条約交渉及びその締結に向けたプロセスに含まれるべきであると論じた。このような条約は、核兵器が廃棄され、新しい核兵器が製造されていないという保証を各国に与える、非差別的で国際的に検証可能な法的取り決めを構成するものとなる。核兵器を保有する国家の参加なくしては核兵器の検証された廃棄のための詳細な条項を交渉することは技術的に困難であることが留意された。多くの国が包括的な核兵器禁止条約の速やかな交渉開始を支持したが、そのような条約は核兵器保有国の参加をもって初めて効果的になりうることに留意された。これらの国家の多くは核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の交渉についても支持を示した。決議68/32に基づいて2018年までに開催される国連ハイレベル国際会議がこれらの交渉の進捗を再検討すべきであることが提案された。
38.いくつかの国(some States)は枠組み合意(a framework agreement)が1つの可能な選択肢だと述べた。これは、核軍縮プロセスの様々な側面を漸進的に扱った相互に補強しあう一連の諸条約、あるいは、核兵器のない世界に徐々に進むための「シャポー」合意とそれに続く補足合意や議定書のいずれかから成る。このようなアプローチは、すべての国家の懸念を同時に考慮に含めることで、柔軟性を備え、信頼醸成措置のための余地を残し、核軍縮に向けた円滑な移行を可能にしうるものである。核兵器の廃棄を達成するための特定の時間枠を必ずしも含まない。交渉されうる第一の補足合意あるいは議定書は核兵器の使用または使用の威嚇の禁止になりうることが提案された。
39.いくつかの国は、混合(hybrid)アプローチについて論じた。これには核兵器を禁止する条約について直ちに交渉を始めることが含まれる。このような条約は、国家による宣言、国家による履行、検証、段階的破棄、援助、技術協力、核兵器の完全廃棄に続いて実施されるべき非差別的な検証体制、に関連した諸議定書によって補完される。このアプローチの支持者は、これが最初は参加に抵抗を示すすべての国家を漸進的に関与させていく枠組みを提供することで枠組みアプローチの包含性を反映させつつ、核兵器禁止条約(NWC)と同程度の包括性と有効性を提供するものになると考えた。
40.一定数の国2は「漸進的アプローチ」への支持を表明した。これは、すべての核兵器の廃棄という目標への条約レベルの誓約をすでに含んでいるNPTをはじめとする既存のグローバル体制の重要性に焦点を当てたものである。(中略)重要なランドマークが、核兵器数が非常に少ないところまで削減され、効果的な検証の技術と方法論を伴った国際的に信頼性のある検証体制が確立された「最小限地点」である。これらの国家はグローバル・ゼロが手の届くところまで来た段階で、核兵器のない世界の達成と維持のための追加的な法的措置が必要になると考える。(中略)漸進的アプローチに基づいて提案されている多くの措置は、コンセンサスをすでに得ている既存の誓約を反映したものであるとの見解が示された。
41.(略)
42.議論された別のアプローチは、NPTに議定書を追加するという案であり、これは別々の法的文書として交渉しうる。このようなアプローチは核軍縮をNPTの不可欠な一部として維持させるものとなる。
43~46.(略)
C. 多国間軍縮交渉の前進に貢献しうるその他の措置
47.作業部会は、多国間軍縮交渉の前進に貢献しうるその他の措置について議論した。透明性、リスク低減、意識啓発は、核軍縮の検証可能性と不可逆性を実現する上で重要である。
現存する核兵器に付随するリスクに関連した透明性措置
48.作業部会は、不可逆性、検証可能性とともに透明性の原則を重視し、これを核軍縮のプロセスに不可欠とみなした。透明性なくしては、核軍縮は信頼のある形で検証できないし、核軍縮措置が不可逆的な方法で実行されたことに国家は十分な信頼を持つことができない。また、透明性の強化は、国家間の不信感を軽減し、地域的及び国際的なレベルで信頼と信用を構築するものである。
49.作業部会は、核兵器保有国の報告する情報に一般市民や近隣国、その他の国が確実にアクセスできることの重要性を強調した。これに関連して、多くの国は、説明責任の強化と核軍縮の促進のため、国連の枠組みの中で報告メカニズムが確立されることを支持した。
50.核兵器計画及び活動に関連した情報の公開に関して、テロリスト、犯罪者、非国家主体による悪意のある使用から機微の情報を防護することの必要性が強調された。
51.現存する核兵器に付随するリスクに関し、様々な国から多様な透明性措置が提案された。これには、核兵器保有国がとりわけ以下の点に関して標準情報を定期報告すべきであることが含まれた。(後略)
52.上述のような標準情報は国連事務総長に提出され、事務総長によって加盟国や一般市民に情報提供されるべきである。
53.多くの国は、自国の軍事及び安全保障の概念、ドクトリン、政策において核兵器の役割を維持しているその他の国家も、とりわけ以下に関する標準情報を定期報告することが奨励されるべきであると提案した。
(a)自国の領内にある核弾頭の数、種類(戦略あるいは非戦略)、地位(配備あるいは非配備、警戒態勢)
(b)自国の領内にある運搬手段の数と種類
(c)軍備及び安全保障の概念、ドクトリン、政策における核兵器の役割と重要性の低下のためにとられた措置
事故や誤謬による核兵器爆発や無認可あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し除去するための措置
54.作業部会は、事故、間違い、無認可、あるいは意図的な核兵器爆発のリスクが、核兵器が存在する限り常に存在し続けると考えた。このようなリスクを除去する唯一の手段は核兵器の完全廃棄を達成することである。
55.作業部会は、核兵器爆発に関する、現在の、そして増大するリスクの原因となりうるいくつもの因子について議論した。これらの因子には、たとえば国際及び地域レベルでの核保有国とその他の国家を含む緊張の高まり、サイバー攻撃や非国家主体に対する核兵器の指揮統制システムや早期警報ネットワークの脆弱性、核兵器システムの自動化の拡大などが含まれる。同時に、核兵器計画における透明性の欠如を考慮すると、そうしたリスクの性質の正確な評価が困難であることが認識された。
56.多くの国は、核兵器を高い警戒レベルに維持することで核兵器のもたらすリスクと脅威を大幅に増大させ、核軍縮のプロセスに否定的な影響を与えかねないとの特段の懸念を表明した。これに関して、これらの国は、核兵器システムの作戦上の地位を低下させる措置が人間の安全保障及び国際の安全保障を増大させ、核軍縮への中間的措置になると同時に核兵器に関連したいくつかのリスクを緩和する効果的な措置になると論じた。
57.作業部会は、核兵器の完全廃棄までの間、リスクを低下させ、安全性を高めるための措置の実施に支持を示しつつも、それが核兵器の保有や使用に対する支持を示唆するものでないことが強調された。
58.核兵器の完全廃棄が達成されるまでの間、事故、間違い、無認可、あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し除去するために、様々な国から多様な措置が提案された。これには、核兵器保有国及びその他の関連する国家が以下に向けてさらなる実際的措置を講じることが含まれた。(後略)
核爆発がもたらす広範な人道上の結末の複雑性及び相互関連性に対する意識と理解を高めるための追加的措置
59~63.(略)
多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうるその他の措置
64、65.(略)
V. 結論及び合意された勧告
66.作業部会は、核兵器のない世界の達成と維持のために締結が求められる具体的かつ効果的な法的措置、法的条項及び規範について明確化するための追加的な努力が可能であり、また、追求されるべきであると勧告した。作業部会は、NPT及びその中に盛り込まれた誓約の重要性を再確認するとともに、いかなるそのような措置、条項、規範の追求もNPTの三本柱を含む核軍縮・不拡散体制を補完し、強化すべきであると論じた。
67.作業部会は、総会に対して、すべての加盟国に開かれ、国際機関ならびに市民社会が参加し貢献する、第34節に概説されたような、核兵器を禁止しそれらの全面的廃棄に導く法的拘束力のある文書を交渉するための会議を2017年に開催するよう、幅広い支持(widespread support)のもとに勧告した。作業部会は、他の国家が上述の勧告に合意しなかったこと、そしてそれらの国が多国間核軍縮交渉を前進させるためのいかなるプロセスも国家的、国際的及び集団的な安全保障上の懸念を考慮しなければならないと勧告し、合意されていない第40及び41節で概説されたように、多国間核軍縮交渉を前進させるための並行的、同時進行的かつ効果的な、法的及び法的以外の措置で構成される実際的措置の追求を支持したことを認識した。さらに、作業部会はその他のアプローチに関する見解が示されたことも認識した。
68.また、作業部会は、各国が適宜、本報告書が提案するような、多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうる様々な措置の履行を検討すべきであると勧告した。これらの措置には次が含まれるがそれに限定されない。現存する核兵器に付随するリスクに関する透明性措置、事故や誤謬による核兵器爆発や無認可あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し除去するための措置、核爆発がもたらす広範な人道上の結末の複雑性や相互関係に対する意識や理解を向上させるための追加的措置、そして多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうるその他の措置。
VI.報告書の採択(略)
別添Ⅰ 漸進的アプローチのもとで提案された諸措置(略)
別添Ⅱ 国際的法的文書に含みうる効果的な法的措置として提案された諸要素(略)
別添Ⅲ 議長、加盟国、国際組織、機関、非政府組織による提出文書一覧(略)
原注
1 アフリカ・グループ(54か国)、東南アジア諸国連合(10か国)、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(33か国)の構成国、そして一定数のアジア、太平洋、欧州の諸国その他で構成される。
2 漸進的アプローチを提唱している24か国その他で構成される。
(長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)の暫定訳にピースデポが手を加えた。)