【朝鮮労働党大会と核問題】 私たちが全体的視野を得る好機
公開日:2017.07.15
視野の偏り
第7回朝鮮労働党大会は5月6~9日、平壌の4・25文化会館1において開催された。36年ぶりの開催であった。
本誌495号(16年5月1日号)において、この大会に向けて北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国、DPRK)国内で繰り広げられた70日間キャンペーンのことを書いた。36年前の大会の前にも、同じ「70日間キャンペーン」があった。記事では、その期間に次々と繰り出された核・ミサイルに関する報道は、科学技術力と国防力を備えた社会主義路線を誇示するための国威発揚のイベントであることを指摘した。その観点からすると、労働党大会はキャンペーン成果を謳いあげる場であって、その期間中に核実験や人工衛星発射をすることは考えにくいことであった。にもかかわらず、日本国内(多くの西側諸国でも)の報道はそのような警戒の記事を書き続けた。
このことに現れているように、北朝鮮に関する私たちの関心は極めて偏ったものになっている。北朝鮮の核・ミサイル問題が、日本の市民にとっても世界の平和と安全保障にとっても重要な関心事であることは言うまでもない。しかし、この問題の平和的な解決は容易なことではなく、私たちには、冷静で広い視野をもった問題意識が必要とされる。
私たちがこの問題に向かい合うとき、まず、未だに日本の植民地支配についての謝罪すらなし得ていない隣国との歴史的経緯の中に置かれる。それに加えて、世界的な文脈における新しい困難にも直面している。閉鎖的な世襲の独裁体制の下で主体(チュチェ)思想を掲げ、孤立主義の中で社会主義経済を実現しようとしている国家の意思と民衆との関係を、外部世界からどのように評価し、北朝鮮民衆との関係をどのように築くかという問題は、世界史の教訓としても簡単に回答が出ない問題であろう。グローバル資本主義の競争原理が、国境を越えて市井の営みを呑み込んでゆく現実を目の当たりにしている現代世界においては、北朝鮮を取り巻く世界的な暴力装置との関係を視野に入れながら問題解決を考えざるを得ない。一方的に、相手の非を鳴らすだけでは、私たち自身が納得できる説得力を持ちえない。
並進路線の再確認
5月8日、金正恩第1書記(9日に新設された委員長に就任)の「朝鮮労働党中央委員会活動報告に関する決定書」が採択された。その全文が9日の党の機関紙「労働新聞」に掲載されたが、ハングルで約45,000字、A4にして約44ページに及ぶものであった2。7ページに掲載したものは、その内容を短く報告した朝鮮中央通信(英語版)の訳文である。
そこには、「我々は経済建設と核戦力の開発を同時に推進する戦略的路線を一貫して堅持し、帝国主義者が核の威嚇と専横な振舞いを継続する限り、自衛的核戦力を質においても量においても強化するであろう」といういわゆる<経済建設と核開発の並進路線>や「責任ある核兵器国として、DPRKは敵対的侵略軍が核兵器で主権侵害を行わない限り核兵器を先行使用することはない」という<核保有国宣言>と言われる内容が書かれている。
しかし、この内容は金正恩体制が並進路線を正式に決定した2013年3月31日の党中央委員会ですでに述べていた内容であって、それに変更がないことが確認されたに過ぎない。むしろ重要な問題は、この再確認が置かれている北朝鮮の全体状況、あるいは金正恩体制が描こうとしている将来の風景全体を、今回の労働党大会において読み取ることができるかどうかにある。それによって、並進路線の内部における変化について考察することが可能になる。いかに劇場ショウの色彩が濃い大会とはいえ、冷戦終結後初めて国民を総動員して準備した党大会において公表する長大な報告文が描く社会主義建設のビジョンは、北朝鮮の官僚、軍人、活動家を鼓舞する大きさに比例して、政権自身も必然的に縛られることになる。
力点の変化
朝鮮中央通信の編集は多分に国外向けの色彩が強い。労働党大会の分析については今後出るであろう多くの専門家の見解を読む必要があるが、朝鮮中央通信の記事からだけでもいくつかの注目すべき点があった。
本稿においてもっとも強調したい点は、活動報告に関する5月7日の記事の次の部分である3。
「党の戦略的路線を遂行するためにDPRKの軍と人民が取り組んだダイナミックな闘争のおかげで、帝国主義と米国との抗争を勝利をもって終結し、我々の大義の最終的な勝利を加速するための確実な保証が与えられた。」
ここでの大義とは「主体思想による社会主義革命」の大義である。すなわち、ここに述べられている単純な論理は、「核抑止力の開発に成功して米国の体制転覆を阻止できる保証が得られたので、経済建設に専念できる」ということであろう。並進路線の内部で経済建設に力点を移す変化が起こりつつあることを示唆している。
「経済開発と人民の生活水準の向上」を繰り返して強調した金正恩の年頭の辞4と重ね合わせるとき、経済に力点を置かざるを得ない「革命の大義」の現状を読み取ることができる。この力点の変化を確実にするために、自衛のための核兵器開発という北朝鮮の論理を無意味にするような国際的な外交努力の重要性を、私たちは改めて確認することができる。入口のハードルを低くして、対話の場を1日も早く実現することが必要であろう。(梅林宏道)
注
1 4・25は北朝鮮の建軍記念日。1932年のこの日に金日成が抗日ゲリラを開始した日とされる。
2 ピースデポ会員で朝鮮語通訳のOMさんに教えていただいた。
3 朝鮮中央通信(英語版)、『金正恩、報告期間における朝鮮労働党の成功を報告』、16年5月7日。
4 朝鮮中央通信(英語版)、16年1月1日。