【OEWG参加報告】 国連「核軍縮」公開作業部会(OEWG)第2会期がジュネーブで開催 ピースデポは作業文書を提出、代表と事務局長が参加・発言
公開日:2017.07.15
「多国間核軍縮交渉を前進させる」ための国連公開作業部会の第2会期が、5月2~4日、9~13日にスイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた。「核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項および規範について実質的に議論」1すべく、80か国あまり2の政府代表のほか、国際機関、学術研究機関、NGO計90組織あまり3が一堂に会した。ピースデポからは作業文書(6~9ページ資料)を提出したほか、代表と事務局長が会期後半の5月9~13日に参加した。
政府代表とNGOが同じ場で議論
「市民社会代表の参加や貢献を伴って招集され」る4公開作業部会には、NGOは事前登録すれば比較的容易に参加でき、作業文書も提出すれば「原則として受理される」(事務局担当者の話)。
会議場は、壇上の議長やパネリストの席を中心にして扇形に机が並んでおり、内側が各国政府代表、外側がNGOなどの席となっていた。
会議は各日とも午前10時に開会し、午後1時から3時まで2時間の休憩をはさんで午後6時まで行われた。「法的措置の要素」「交渉前進の方途」などのテーマに沿って壇上のパネリストが問題提起をしたあと、フロアから、パネリストへの質問や意見を含め、各テーマに関連する発言を行う。ただし、フロア発言は必ずしもテーマに厳密に沿ったものとは限らなかった5。
発言希望者は予め議長のタニ・トングファクディ大使(タイ)に発言を申し出る。ただしNGOなど市民社会代表は、国連が窓口に指名したWILPF(婦人国際平和自由連盟)の担当者に発言希望の時間帯を事前に伝えておけば、それが議長にも伝わる仕組みとなっていた。議長の采配により、複数の国と複数のNGOとが交互に発言する形で会議は進行した。
「作業文書」と「北東アジア非核兵器地帯」で2回発言(ピースデポ)
ピースデポは2度にわたり発言した6。
1回目は5月11日(水)、自身が提出した作業文書のポイントを紹介する発言を行った。まず、核軍縮をめぐる膠着状態を打破し現状に変化を起こしたいと願って作業文書を提出した旨を一言述べた。その上で、包括的核兵器禁止条約への第1段階の措置として「使用禁止条約」を提起し、使用と使用の威嚇を、保有や備蓄と独立して禁止することが可能であることおよびその意義を述べた。また、その際に非核国(「非核兵器地帯条約」締約国と核依存国の双方)が積極的な役割を果たしうるとした。
2回目の発言は13日(金)、北東アジア非核兵器地帯構想について行った。会議では、非核兵器地帯条約締約国の視点から核兵器禁止条約交渉の早期開始を提言する作業文書(A/AC.286/W.34)が提出されたほか、「非核兵器地帯がまだない地域への新たな設置が必要」との発言が複数の政府代表からなされ、他方で、日本や韓国の代表は北東アジアの安全保障環境を理由に核兵器依存からの脱却が難しいとの趣旨の発言を行っていた。これらを受けて、核兵器依存から脱却するための構想が日本の市民社会で育まれていることを知ってもらおうと発言したものである。
核兵器「禁止」をめぐる溝
以下、第2会期後半の議論を傍聴しての印象を簡単に記しておきたい。
出席した国々は、核兵器のない世界をめざすべきという点では一致していたと言ってよい。しかし、そこに至る道筋と時間軸をめぐっては、各国は大きく2つに分かれていた。すなわち、①「核兵器を禁止する法的拘束力ある法的文書」の交渉開始を早急に始めるべきとする国々と、②核兵器禁止に向けた交渉開始は時期尚早であり、核保有国を交えてCTBT発効・FMCT交渉など既定の措置の実行に注力すべきとする核依存国、という従来からあった分岐である。互いの主張は平行線をたどり、溝は容易には埋めがたいとの印象を残した。
埋めがたい溝を象徴していたのが、前者の急先鋒たるメキシコと後者の代表格である日本のやりとりだった。メキシコ代表が「この部屋は現状を変えようとする者と守ろうとする者に分かれている。核依存国の『前進的(漸進的)アプローチ』(progressive approach)は何も新しくない。彼らの狙いは現状維持だ」と核依存国を批判すれば、日本代表が「現状維持派と改革派という単純な二分法を私は受け入れない。核軍縮過程はジグザグだ」と応じるなど、両者の応酬が随所で聞かれた。
その一方で、発言をよく聴いていると各「派」内でも微妙な温度差が感じられたほか、互いに歩み寄ろうとする姿勢が窺える発言もなくはなかった。例えば「禁止推進派」のオーストリアは「禁止自体に反対の国はなく、禁止をすべき時期に意見の相違があるに過ぎない」と、主張の違いを際立たせたメキシコとは異なるトーンの発言をした。核依存国のオランダは「我が国議会は核兵器禁止を含む核軍縮の効果的措置に取り組む意思を表明した」と述べ、「違いに焦点を当てず共通点を見出す努力をすべき」などとした。スウェーデンは、新たな法的措置はNPT体制を弱体化させるとの慎重派からの批判を念頭に、NPT第6条の追加議定書の導入を提案した。こうした議論が今後、膠着状態の打開につながるのか、興味がもたれる。
今後に向けて
今会期については、第1会期後に作成されたような「まとめ文書」は出されず、その代わり国連総会第1委員会に提出される「勧告を含む報告書」の草案たたき台(ゼロ・ドラフト)が7月末~8月初めに議長より発表されるという。8月の第3会期では、この「報告書」の取りまとめに向けて議論が行われる。その採択方式をめぐっては、日本などが核兵器国を含む全会一致方式を強く主張したものの、全会一致か多数決か結論は出なかった。
会期最終日の13日、議長から第3会期の日程が提案された。8月5日(金)、16日(火)と17日(水)の午後、19日(金)に全体会を開く予定で、必要に応じ、8月8~19日の期間内に若干の非公式協議も行う計画という。
各国政府とNGOによる議論の内容については次号で詳報する。(荒井摂子)
注
1 国連総会決議70/33主文2節
2 国連事務局発行の名簿(A/AC.286/CRP.1、16年5月13日)に掲載されているのは46か国だが、会場の政府代表席にあった国名の札は80を超えた。
3 注2の名簿(A/AC.286/CRP.1)による。
4 国連総会決議70/33主文5節
5 テーマやパネリスト名は第2会期の日程表(A/AC.286/WP.21/Rev.1)に記載されている。
6 発言原稿(英文)はWILPF(リーチング・クリティカル・ウィル)ウェブサイト内に掲載されている。
www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/ oewg/2016/may/statements