【核軍縮「公開作業部会」(OEWG)、ジュネーブで始まる】 ――第1会期での議論から
公開日:2017.07.24
昨年の第70会期国連総会決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」(70/33)に基づいて設置された「公開作業部会(OEWG)」の第1会期が、2月22日から26日にかけてジュネーブで開催された1。「核兵器のない世界の達成と維持のために締結される必要のある具体的で効果的な法的措置、法的条項および規範について、実質的に議論すること」を主要な任務とする協議の場である。
議長に指名されたタニ・トングファクディ大使(タイ)は開会にあたって、「もっとも意味深いのは、どの道を選ぶかではない。選んだ道が核兵器の全面的廃絶という国際的な合意に向かっていることだ」という潘基文(パン・ギムン)国連事務総長の言葉を引きながら「この機を逃さないようにしよう」と呼びかけた2。
動機と優先順位が問題―オーストリア
昨年の国連総会で、決議「核兵器の禁止と廃棄のための人道上の誓約」(70/48)の採択を主導し、「多国間軍縮交渉」決議でも重要な役割を果たしたオーストリアは、2つの作業文書を携えて作業部会に臨んだ。「核兵器と安全保障:人道的視座」(AC.286/WP.4)と「『法的ギャップ』―NPT、そして核軍縮交渉の前進に関するさまざまなアプローチ」(A/AC.286/WP.5)、である。後者においてオーストリアは、NPT第6条と核兵器廃絶という目標の間に「法的ギャップがあることは間違いない」とした上で、自らが立つ「人道イニシャティブ」の立場からは、核兵器禁止の緊急性が強調される一方、核兵器国やその同盟国は安全保障上の要請との整合性から「ステップ・バイ・ステップ」プローチに固執している、と現状を整理した。そして、「提案されている諸アプローチは考えられているよりも補完的な関係にある。むしろ、『法的なギャップ』に関する議論の実質的な相違は、背後にある動機であり、優先順位だ」と結んだ。
NGOから「禁止条約」の主張
2つのNGO(第36条、婦人国際平和自由連盟(WILPF))が連名で提出した作業文書―「核兵器禁止のために法的ギャップを埋める」(A/AC.286/NGO.2)及び「核兵器を禁止する条約」(A/AC.286/NGO.3)は、人道イニシャティブの立場から「法的ギャップ」の深刻さを訴えた上で、禁止条約が緊急に必要だとして条約に盛り込まれるべき原則を述べ、「ステップ・バイ・ステップ」アプローチを厳しく批判した。
究極的な廃絶と安全保障のバランスが必要―核兵器依存国
「核兵器依存」19か国(日本、韓国、オーストラリア、NATO諸国など)を代表して登壇したカナダは、次のように述べた。「核軍縮の実現には全ての核兵器を廃絶するという究極的目標と、一方的な廃棄によって国家と国際の安全保障が不安定化されるというリスクの間でのバランスが必要だ」。日本の佐野利男・軍縮会議日本代表部特命全権大使は、「核兵器国のいない場で禁止条約を議論することは望ましくない」と述べた(2月24日、「パネルⅠ」)。
日本は、17か国と共同で作業文書「核兵器のない世界への漸進的アプローチ:ビルディングブロック・パラダイムに立ち返る」(A/AC.286/WP.9)を提出したが、全体として新味に欠けるものであった。私たちが外相あてに提出した要望―ベンチマークと時間軸の明示、北東アジア非核兵器地帯への言及、日本自身が核兵器依存から脱却する誓約3は、反映されなかった。
序盤の議論は、各国が従来の立場を再表明する中で、NGOが奮闘したとの印象が残された4 。次号で詳報したい。(田巻一彦)
注
1 概要、暫定議題等は本誌前号(490-1号、16年3月1日)トップ記事「第Ⅲ部」(7~8ページ)。
2 議題、日程、演説草稿、提出文書等は国連ジュネーブ事務局のウェブサイト(http://www.unog.ch/)から “DISARMAMENT”のリンク・タグをたどって入手できる。
3 本誌前号のトップ記事「第Ⅱ部」(4~7ページ)。
4 前記2団体のほか、以下のNGOと専門家が意見表明した。平和首長会議、核軍縮・不拡散議員連盟、アンフォールド・ゼロ、国際反核法律家協会(以上「意見交換」)、ジョン・ボリー(国連軍縮研究所)、タリク・ラウフ(ストックホルム国際平和研究所)、グロ・ニステュエン(国際法政策研究所)、レベッカ・ジョンソン(アクロニム研究所)、ヘレン・ダーラム(赤十字国際委員会)、ベイザ・ユナル(チャタムハウス)、パベル・ポドヴィック(国連軍縮研究所)(以上「パネリスト」)、ワイルドファイア(作業文書)。
また、被団協(日本原水爆被害者団体協議会)の藤森俊希事務局次長らも参加し、被爆者の立場から核廃絶を訴えた。