【短信:北朝鮮の動向】  政治・外交パフォーマンス、5月の労働党大会に照準

公開日:2017.07.17

 5月上旬に36年ぶりに開催される第7回朝鮮労働党大会に向けて、北朝鮮の政治・外交のすべてが動いていると言っても過言ではない。
 2月18日、労働党中央委員会、労働党中央軍事委員会が、共同で全党員へ第7回労働党大会への檄をとばした1。金日成主義・金正日主義礼賛と金正恩最高司令官への忠誠という基調を繰り返しつつ、広範な分野で党員の決起を呼びかけた。
 曰く「人民第一主義を全党に貫け」「青年の訓練に全力を注げ」「水爆実験成功の精神をすべての分野に」「朝鮮流で世界クラスの地下鉄の建設を」「人民の生活水準の改善を」「ハウス野菜生産の沸き立つ全国運動を」「全土を果樹園に」「消費財問題の完全解決を」「新世紀の教育革命の炎を燃やせ」「全人民の科学技術能力の向上で科学技術大国の早期実現を」「社会主義保健システムの利点を全開せよ」「世界の進歩政党や人民との連帯の強化を」……。
 5月に向かうこの時期の北朝鮮の政治・外交パフォーマンスは、このような国民総動員の文脈において理解する必要がある。

米国の新作戦計画による緊張激化

 この国民運動の中で、3月7日に米韓合同軍事演習が始まった。野外実動演習フォウル・イーグルと初期の米軍投入訓練キー・レゾルブである。例年のものであるが、史上最大規模の兵力の投入とともに、今回の演習には新要素が加わった。
 米軍の新しい作戦計画5015の一部が昨年暴露され、韓国国会で激しい議論になった。その内容は、危機において、米韓は朝鮮戦争のような正規戦ではなくて、先制攻撃によって一気に北朝鮮の軍事拠点を破壊し、金正恩指導部の中枢を襲って殲滅する非正規攻撃を行うというシナリオである2。このシナリオが、今回の大規模演習の内容として組み込まれていると考えられた。北朝鮮はこのシナリオを「斬首作戦」(beheading operation)と呼んで金正恩殺害計画として非難し、激しく反発した。実際には、この作戦概念は新しいものではなく、米国の対テロ戦争において指導部中枢個人を殺害する「斬首戦略」(decapitation strategy)と呼ばれたものである。イラク戦争においてサダム・フセインを標的にした軍事作戦はその一例であった。

先制攻撃の言説とリスク

 北朝鮮による激しい反発は、北朝鮮が「先制攻撃」の意図を繰り返し表明し、瀬戸際までエスカレートさせたことに現れている。2月23日、北朝鮮は最高司令官の重大声明を発表した。この文書は、国連総会と安保理に送付・配布された3
 声明は作戦計画5015の意図を「DPRKの最高司令部を標的とした『斬首作戦』を通して『社会体制の崩壊』を目指す」ものであると述べ、それは、「北朝鮮の核・戦略ミサイルの使用を命じる権限のある者を排除するための先制攻撃」を意味すると主張した。その上で、北朝鮮もまた、「この瞬間から、敵軍に反撃するための先制的な正義の作戦に突入する」と宣言した。
 「相手が先制攻撃をするので、こちらが先に先制攻撃をして相手の中枢を叩く」と言っているように読めるが、北朝鮮の文言は注意深く作られている。上記の最高司令官の重大声明は、「敵の特殊作戦部隊や兵器が『斬首作戦』を実行する兆候をいささかでも示せば」という条件を付けている。これ以後も、北朝鮮は「先制攻撃」の言説を繰り返しているが、すべてにおいて、この国際法を意識した注意深さは保たれた。
 このことは、北朝鮮が「何をするか分からない」状態において行動しているのではないことを示している点において、一つの安心材料ではある。しかし、このような状況においては双方の側からあらゆる形の謀略が可能なのであって、武力衝突のリスクは極めて高く、危うい。

核・ミサイルの技術力を誇示

 同じ時期、北朝鮮は核・ミサイル技術力の進展を誇示する宣伝活動を繰り返した。
 3月9日、労働新聞が写真入りで小型化した核弾頭の写真を載せ、金正恩が科学者から弾頭小型化と運搬ミサイルに搭載するための標準化の説明を聞いたと報じられた。3月15日には、弾頭の再突入環境模擬試験の成功が写真入りで報じられ、3月24日には固体燃料ロケットの燃焼実験に成功した写真を公開した。4月9日にはICBM用の新型ロケット地上噴射実験の成功を動画で公開した。
 これらの公開は、北朝鮮の抑止力の信憑性を印象づけるよりも、むしろ技術段階がまだ実戦兵器レベルに達していないことを示すものである。この技術的成果の強調の狙いは、国防戦略における自主科学技術の成果を強調する国内政治目的であると考えるのが妥当であろう。(梅林宏道)

1 韓国中央通信・英語版、16年2月18日。
2 「朝日新聞」、15年10月5日。
3 A/70/760-S/2016/179