2022年度 第4回「脱軍備・平和基礎講座」報告
2022.09.07
「米中対立、問われる日本」講師:半田滋(防衛ジャーナリスト)
2022年8月27日(土)14時から16時まで半田滋さん(防衛ジャーナリスト)による2022年度第4回脱軍備・平和基礎講座「米中対立、問われる日本」が連合会館(対面/オンライン併用)で実施された。講座には合計28名(対面8名、オンライン20名/通し参加者11名、単発参加者8名、スタッフ9名)が参加した。
講義の中心は台湾問題と日本の軍備増強というホットな話題であった。
講師は冒頭でウクライナ問題を取り上げた。バイデン政権は、世界戦争につながる危険性の高い米軍のウクライナ派遣は行わないとの立場を明らかにしている。一方で、バイデン大統領は「米国には台湾防衛の責務がある」と3回も表明し、いずれも直後に事務方が「米国の政策に変更はない」と発言を訂正した。米台関係を律する米国内法・台湾関係法に米国の台湾防衛義務がないにも関わらず、バイデンが台湾防衛の責務があると繰り返し述べるのには理由があるという。
第一に、台湾から南西諸島、沖縄にかけてSOSUS(Sound Surveillance System)と呼ばれる潜水艦音響監視システムがあり、このシステムを使って米国は中国などの核ミサイル搭載原子力潜水艦の動きを監視している。中国に台湾を奪われれば、原潜探知に支障をきたすため、米国は台湾防衛にこだわっているという。第二に、台湾には世界一の半導体チップ生産を誇るTSMCがある。米国企業や米軍も半導体供給の多くをTMSCに依存しているため、米国は台湾を中国に取られたくないとのことだ。
つづいて、講義では、憲法9条が定める専守防衛を明らかに越えた能力をもつ兵器を自衛隊が保有しつつある実態が明かされた。周知のとおり、憲法9条は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を放棄し、その「目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と明記している。政府は、自衛のための必要最小限度の実力である限り、自衛隊は憲法で保持が禁じられる「戦力」にはあたらないとしたうえで、保有が禁じられる攻撃的兵器の例として、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母をあげている。ところが、講師によると、機能面では上記兵器とほぼ同等の性能をもつ違憲の兵器を自衛隊が保有し始めているというのだ。
例えば、自衛隊が導入する予定の高速滑空弾は、ロシアではミサイル防衛を突破できる「ICBM」として開発されたもので、ICBMと同様の目的を果たすことができる。同様に、自衛隊が導入するJSM、JASSM、LRASMといった長射程巡航ミサイルは、はるか遠くの攻撃目標を攻撃できるという点で長距離戦略爆撃機と同じ役割を果たすことができる。また、護衛艦いずもの空母化が現在進められているが、完成すれば攻撃型空母を保有することとなる。いずれも政府が違憲の兵器の例としてあげた攻撃的兵器と同じ機能を持っており、憲法9条と専守防衛が空文化しつつある実態が明かされた。
講師によると、安倍元首相、菅前首相は、憲法9条で禁じられているはずの攻撃的兵器を着々と揃え、既成事実化を図ろうとした。それを受けて、岸田首相は、敵基地攻撃能力保有を、すなわち、専守防衛を超える攻撃能力の保有を「国家安全保障戦略」「防衛大綱」「中期防衛力整備計画」で認める方針だという。
これを認めれば、憲法9条が定める専守防衛の原則を完全に葬り去ることとなる。また、国民的議論を経ずに、憲法の条文を一文字も変えずに実態をまったく違ったものにしてしまうという点で国民主権と法治主義の精神にもとる暴挙である。こうした暴挙を防ぐためには、まず、上記の現実を広く知らしめる必要があると思った。
つづいて、2027年までに台湾有事となる可能性が高いという議論の分析が行なわれた。2021年3月9日、インド太平洋軍のデービッドソン司令官が「台湾への脅威は今後6年以内に明白になるだろう」と米上院軍事委員会で発言し、2027年までに台湾有事が起きる危険性が高まることを示唆した。習近平が2022年10月の共産党大会で三選されれば、その任期は2027年までであり、講師によると、四選をめざして2027年までに習近平が台湾統一に動くかもしれないことが上記の議論の背景にあるという。
しかし、中国からすれば、台湾の武力統一は決して望ましいシナリオではなく、平和的統一により高い優先順位が置かれているはずである。中国が最も懸念するのは、日米など外国勢力が台湾独立を支援した結果、それが実現してしまうことであり、それを阻止するためには武力行使も辞さないということであろう。したがって、台湾有事を避けるうえで最も肝要な点は、日米など外国勢力が台湾問題で従来の立場を守ることである。台湾独立を支援していると見られかねない動きを日米などが続ければ、中国を刺激し、台湾侵攻の可能性を高めるだけであろう。日米は静かにしているのがベストである。
そうしたことを考えさせられる示唆に富む講義であった。
(文責:渡辺洋介)