第7回「脱軍備・平和基礎講座」報告

2021.12.28

「軍事化する宇宙」講師:前田佐和子 元京都女子大学教授

2021年12月18日(土)14時から16時まで前田佐和子さん(元京都女子大学教授)による第7回脱軍備・平和基礎講座「軍事化する宇宙」がオンラインで実施された。受講登録者は37名(通し参加27名、単発参加者10名)で、そのうち22名が参加した。

はじめに講師から自己紹介があった。講師の前田さんは宇宙科学が専門で国内外の大学や研究所でオーロラの研究をしていたが、定年退職のころから日本の宇宙開発が急速に軍事利用へ重心を移し始めたことに気づいた。そうした状況を危惧し、宇宙の軍事化に関する調査と発言を始めるようになったとのことだ。受講者に初心者が多いことを意識してか、基本的なことに対する説明を省かず、とても丁寧に解説され、筆者のような宇宙についての初心者にも非常にわかりやすい講義であった。

本題に入ると、まず、あつかう宇宙の範囲が、人工衛星が回っている地球から3万6000km以内の宇宙空間であることを述べたうえで、日本の宇宙開発の歴史を振り返った。日本は1955年に初めてロケットを打ち上げて以来、世界で唯一、非軍事目的で宇宙開発を進めてきた。1969年には国会で宇宙の平和利用原則が決議され、宇宙開発は平和利用に限られることが規定された。ところが、1985年に海上自衛隊が米海軍の偵察衛星データ受信装置を購入したのを機に宇宙の平和利用原則が崩れ始め、1998年に日本政府は「情報収集衛星」という名のもとに偵察衛星の開発に着手した。2008年に成立した宇宙基本法では「平和利用原則」を破棄し、宇宙利用の原則を「非軍事」から「非侵略・防衛」に変更。それを受けて、宇宙航空開発研究機構(JAXA)法の文言も「憲法の平和主義にのっとり」(2002年)から「宇宙基本法の平和利用の理念にのっとる」(2012年)に変更された。2015年に成立した第3次宇宙基本計画に至っては、安倍政権の「積極的平和主義」をふまえ、安全保障・軍事が宇宙開発の最重要課題の1つに位置づけられた。その後は、米国と日本の測位衛星(GPSと準天頂衛星みちびき)、人工衛星破壊実験、極超音速兵器、日本の宇宙作戦隊設置といった近年の宇宙安全保障をめぐる動きの解説があった。

講義の後は質疑応答となった。山口県から参加した3人の受講者からは、山口県山陽小野田市の航空自衛隊防府北基地に建設が予定されている第二宇宙作戦隊の宇宙監視レーダー施設および山口県に配備される予定であったイージス・アショアについて質問があった。宇宙監視レーダーについては、最近、防衛省が住民説明会を行ったそうで、受講者の1人からその際に配布された資料も提供された。この他、現在は軍事目的の業務が含まれている宇宙開発の機構を非軍事に戻すことはできないかといった質問があった。これに対して講師の前田さんは、短期間で非軍事に戻すのは簡単ではないが、宇宙開発だけでなく、大学など軍事研究全体で現在の軍事化への流れを止めることによって、はじめて宇宙開発の非軍事化も可能となるという趣旨の答えがあった。

講義の多くは初めて聞く内容で、日本における宇宙の軍事利用の現状を理解するうえで大きな助けとなった。また、日本の宇宙開発における軍事化がここまで進んでいるとはまったく知らず、自らの無知を嘆くとともに大きな衝撃を受けた。宇宙開発に対しても監視の目を緩めてはならないと感じ、身の引き締まる思いであった。

(文責:渡辺洋介)