2022年度 第8回「脱軍備・平和基礎講座」報告
公開日:2023.01.11
「『ジェンダーと平和』で問われているもの」講師:本山央子さん(お茶の水女子大学ジェンダー研究所特任リサーチフェロー)
2022年12月17日(土)14時から16時まで本山央子さん(お茶の水女子大学ジェンダー研究所特任リサーチフェロー)による2022年度第8回脱軍備・平和基礎講座「『ジェンダーと平和』で問われているもの」がオンラインで実施された。講座には合計18名(通し参加者8名、単発参加者1名、スタッフ9名)が参加した。
ジェンダーの視点から戦争と平和の問題を論じた講義を聞いたのは、今回がおそらく初めてだったこともあり、講師の切り口は非常に新鮮に感じられた。また、女性の視点から見た現代社会が抱える問題点は、男性中心の権力者による暴力支配という国際政治が抱える問題点にそのまま通じるものがあると感じた。
講義では主に3つの内容が語られた。第一に、ジェンダーの視点からみた戦争と平和の理解についていくつか事例が紹介された。例えば、平和の像として女性の銅像が作られることが多い。講師によると、これは女性が「無垢な戦争の犠牲者」で平和の象徴であるというイメージが広がっているためである。問題は、男性は「平和的で無垢な犠牲者」である女性を外敵から守らなければならないという議論に往々にしてつながってしまうことにある。こうしたレトリックは、暴力を正当化するだけでなく、男性による女性の暴力支配まで正当化してしまう。
また、ジェンダーの視点からみた場合、戦争と平和は連続しているという議論も目からウロコが落ちる思いであった。すなわち、男性による女性支配は暴力による支配をその本質としており、暴力支配の構造から生じる諸問題は戦時・平時を通じて生じているという指摘である。
第二に、冷戦後のジェンダーの主流化に話が進められた。冷戦終結後、安全保障の分野においてもジェンダーの視点からの議論がなされるようになり、2000年には国際平和・安全保障と女性の権利・ジェンダー平等の関係が初めて認められた安保理決議1325が採択された。これは画期的なことであったという。その後の安全保障関連の文書でも、例えば、2022年に採択された核兵器禁止条約第一回締約国会議の文書や第10回NPT再検討会議の最終文書案でも、ジェンダーの視点からの議論が盛り込まれた。
第三に、フェミニストの平和研究が問うてきたものを再考し、課題を示した。これまでフェミニストは、戦争を国家間のものとしか捉えない点を問題とし、戦争の経験は男女で異なり、ジェンダー暴力という点では戦時と平時が連続していることを指摘してきた。また、「ジェンダー平等」もグローバルな不平等体制を暴力によって維持する国際安全保障体制に組み込まれており、女性の安全と権利を実現するためには、より公平な資源配分が必要であるという課題を示した。
講師の話は男性による女性支配と暴力による支配が表裏一体であることに気づかせてくれた。国際政治の世界は現在もなお暴力による支配をその本質としている。男性は「女性を外敵から守る」という名のもとに暴力による女性支配を続けてきたが、この議論は「男性」を「大国」に、「女性」を「小国」に置き換えても成り立つのではないかと感じた。
(文責:渡辺洋介)