【在日米軍再編】岩国で進む、世界規模でも突出した基地強化空母艦載機移駐で配備機数が倍増
公開日:2017.10.12
在日米軍再編の中で最も突出した岩国基地の強化が今年、いよいよ具体化されようとしている。6月23日、岩国市議会の最終日、福田岩国市長は、厚木基地に配備されている空母艦載機61機の岩国移駐受け入れを公式に容認した。これにより、7月以降、約1年をかけて艦載機移駐が順次進められる。これが完了すれば、岩国基地の米軍機は倍増し、嘉手納基地(沖縄県)をしのぐ極東最大の軍事空港となる。岩国で進む基地強化の現状を見る。
「米軍再編」における岩国基地
在日米軍再編の前提である米軍の世界再編は、2003年11月、当時のブッシュ大統領が、米ソ冷戦終結で経済のグローバル化が進み、世界のあらゆる地域での脅威にいつでも対応できる軍事基地のネットワークが必要であることを宣言して始まった。ブッシュ政権は、同盟国の役割強化、不確実な時代に対処するため柔軟性と機動力を持った基地の展開、迅速展開能力の発展、特定地域に焦点を当てるのでなく地球規模の部隊運用など5つの原則を打ち出した。そこでの基本的な考え方が「蓮の葉戦略」である。地球表面を大きな池に例え、水面に浮かぶ大中小の蓮の葉を軍事基地になぞらえて、以下のような大中小の基地を配置する。
まず、第1は常駐部隊がいてインフラがそろった恒久的な「主要作戦基地」(大きな葉)である。日本と韓国の米軍基地は冷戦時代に対ソ包囲網の一環として置かれたが、そのまま主要作戦基地と位置づけられた。第2は、より簡素で常駐部隊がいるわけではないが、ローテーションで部隊配置できる「前進作戦地」(中くらいの葉)。第3は、フィリピン、インドネシア、ベトナム、シンガポール、インド等の港を米艦船が自由に使える程度の「安保協力地点」(小さい葉)である。09年に登場したオバマ政権も米軍再編については基本的にブッシュ路線を継承した。
在日米軍の再編については、05年10月29日に中間報告として「日米同盟:未来のための変革と再編」1が発表され、06年5月の最終合意2に至る。再編は06年から始まり14年には終わる予定であった。岩国基地関連では、中間報告において、「空母艦載機の厚木飛行場から岩国飛行場への移駐」として次のようにされた。「米空母及び艦載機の長期にわたる前方展開の能力を確保するため、空母艦載ジェット機及びE-2C飛行隊は、厚木飛行場から、滑走路移設事業終了後には周辺地域の生活環境への影響がより少ない形で安全かつ効果的な航空機の運用のために必要な施設及び訓練空域を備えることとなる岩国飛行場に移駐される」。そして最終合意には以下の項目が示されている。
1. 第5空母航空団の厚木飛行場から岩国飛行場への移駐は、F/A-18、EA-6B、E-2C及びC-2航空機から構成され、(1)必要な施設が完成し、(2)訓練空域及び岩国レーダー進入管制空域の調整が行われた後、2014年までに完了する。
2. 厚木飛行場から行われる継続的な米軍の運用の所要を考慮しつつ、厚木飛行場において、海上自衛隊EP-3、OP-3、UP-3飛行隊等の岩国飛行場からの移駐を受け入れるための必要な施設が整備される。
3. KC-130飛行隊は、司令部、整備支援施設及び家族支援施設とともに、岩国飛行場を拠点とする。航空機は、訓練及び運用のため、海上自衛隊鹿屋基地及びグアムに定期的にローテーションで展開する。KC-130航空機の展開を支援するため、鹿屋基地において必要な施設が整備される。
4. 海兵隊CH-53Dヘリは、第3海兵機動展開部隊の要員が沖縄からグアムに移転する際に、岩国飛行場からグアムに移転する。
5. 訓練空域及び岩国レーダー進入管制空域は、米軍、自衛隊及び民間航空機(隣接する空域内のものを含む)の訓練及び運用上の所要を安全に満たすよう、合同委員会を通じて調整される。
6. 恒常的な空母艦載機離発着訓練施設について検討を行うための二国間の枠組みが設けられ、恒常的な施設を2009年7月又はその後のできるだけ早い時期に選定することを目標とする。
7. 将来の民間航空施設の一部が岩国飛行場に設けられる。
再編の中心をなす1.が今年後半から始まるのである。まず早期警戒機E-2Dが5機、17年7月以降に移駐。その後、11月頃にFA-18E/Fスーパーホーネット24機、18年1月頃、EA18Gグラウラー電子戦機6機、及びC-2グレイハウンド輸送機2機が配備される。最後に18年5月頃に再びFA-18E/Fスーパーホーネット24機の移駐が予定されている3。ちなみに艦載機部隊は、軍人1700人、軍属600人、家族1500人、合計3800人とされる。2.の海上自衛隊17機の厚木への移駐計画は、地元の要請もあり現状維持として岩国に残留する。3.は、14年8月、普天間から空中給油機15機が岩国に移駐し完了した。空中給油機の鹿児島県鹿屋やグアムへのローテーション展開は進んでいる。4.のCH53Dの移駐に関する詳細は不明。5.は1.の前提条件となるが、調整の結果、16年11月、山陰沖と四国沖に岩国臨時留保空域が設定された4。7.は、12年12月、錦帯橋空港と銘打って開港した。
6.は、再編合意の後しばらく動きはなかったが、11年6月21日、日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書5の中で、空母艦載機離発着訓練の恒久的施設の候補として種子島の北西約12kmにある鹿児島県馬毛島が明記された。これに対し、西之表市など種子島屋久島1市3町は、07年4月、「米軍空母艦載機離着陸訓練施設馬毛島問題対策協議会」を設置し、一貫して反対の立場を表明している結果、こう着状態が続いている。現在、国は土地所有者との交渉に必要な不動産鑑定業務を行っているとされる。この件は、米軍再編の構想が出てくる1年前の04年、広島湾を挟んで岩国基地の対岸にある黒神島(広島県沖美町(当時))への建設案に沖美町長が合意するという事態が発覚したが、広島県知事も一切知らない中での構想で、1週間でとん挫した経緯がある。厚木、三宅島、大黒神島と転々と候補地が変わりつつ、長きにわたり実現できない懸案事項である。
海軍と海兵隊が共存する極東最大の軍事空港になる
岩国は米海兵隊の航空基地であるが、空母艦載機部隊が移駐すれば単なる海兵隊基地ではなくなる。原子力空母は動く軍事空港であり、これを使えば世界中どこの海にも軍事空港を配置することができる。湾岸戦争(91年)以来、米軍の戦争の中心は空母打撃団である。どこかで戦端を開く必要があれば空母を現場に近い海に急派し、空母を拠点にして空母艦載機による空爆と、随伴する巡洋艦、駆逐艦のトマホーク攻撃で戦端を開く。03年3月のイラク戦争では5つの空母打撃団が展開した。その中には当時横須賀を母港にした空母「キティホーク」も含まれ、艦載機はペルシャ湾からの空爆をくり返した。随伴した巡洋艦「カウペンス」が真っ先にトマホークを発射した。トランプ政権になってもこの戦略は基本的に変わらない。海外で原子力空母が配備されているのは横須賀だけである。その空母打撃団の中心部隊が岩国に来れば、岩国は海軍基地としての性格も持つことになる。
更に基地の南端には佐世保配備の強襲揚陸艦が接岸できる程度の大型岸壁がある。オスプレイの普天間配備に際しては、この岸壁を使用し、大型輸送船でオスプレイを岩国に陸揚げし、試験飛行の後、普天間に移動したという経緯もある。つまり海陸両用の軍事空港である。キャンプシュワブを作り替えて普天間の代替施設をという名目で新基地を作ろうとしているのも、この岩国の形を流用して海空両用の軍事空港を作るということである。このような事態を引き寄せたのは、騒音対策と銘打って、滑走路を沖合に移設するべく海面埋立てにより基地の敷地を37%広げることと、米軍再編構想を練るタイミングとがぴたりと合ったためである。岩国では、滑走路沖合移設事業として、冷戦終結から間もない97年6月から基地の東側216haの埋立てが行われ、元々537haであった基地は、753haへと拡張されたのである。
岩国基地の配備機数がどのくらいになるか、実は明確にされていないが、極東最大になることは間違いない。15年3月現在、海兵隊機は岩国市によれば75機である6。これには、14年、普天間から移駐したKC130空中給油機15機も含まれる。このうちのハリアー6機とホーネット10機の最新鋭ステルス戦闘機F35Bへの更新が17年1月から始まっている。厚木から移駐する空母艦載機61機を含めると合計136機になる。これまで極東最大といわれた嘉手納空軍基地は全部合わせても100機以内である。岩国はこれに海上自衛隊機が約36機加わるから、足せば約170機が岩国基地に配備されることになる。さらに海軍仕様のオスプレイ2機が、4年後ぐらいに機種変更として配備される。現在は1本の滑走路を使う形だが、場合によっては旧滑走路も使わざるを得なくなるかもしれない。
このように岩国で進む再編強化は、普天間代替施設としての辺野古新基地建設と並び、在日米軍再編の中でも最も突出している。一方で、米軍の世界再編において、在日米軍再編は、最も重要な主要作戦基地の再編にあたる。この両者を重ねて考えれば、岩国での基地強化は米軍の世界再編の中でも最も突出していることが浮かび上がる。更に空母、及び海兵隊航空基地が海外に配備されているのは日本だけであることを合わせみれば、米軍の世界規模での海外展開において岩国基地の位置づけが飛躍的に高まることは間違いない。(湯浅一郎)
注
1 www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/henkaku_saihen.html
2 「再編実施のための日米のロードマップ」(06年5月1日)。www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_aso/ubl_06/2plus2_map.html
3 山口県岩国基地対策室;「岩国基地再編案に関する再検討結果」(17年3月)。www.pref.yamaguchi.lg.jp/press/201703/036760_f1.pdf
4 同上。
5 www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/2plus2_gai1106.html
6 岩国市;「基地と岩国 平成26年版」、15年3月。