【核兵器禁止条約交渉】国連会議、成案を採択して閉幕「使用の威嚇」を禁止し、保有国加盟の道筋を整理
公開日:2017.10.12
ニューヨーク国連本部で開かれていた交渉会議は7月7日、核兵器禁止条約の最終案を投票総数124か国中122か国という圧倒的多数の賛成で採択して閉幕した。6月15日から始まった第2会期の審議経過を振り返りつつ、条約の内容を概観する。
ニューヨークで開かれていた核兵器禁止条約を交渉する国連会議(議長:エレイン・ホワイト・コスタリカ大使)は7月7日、条約を投票総数124か国中122か国という圧倒的多数の賛成で採択し1、2会期・計4週間あまりの日程を終えた。非人道大量破壊兵器である核兵器を違法として「悪の烙印」を押し、それにより核なき世界を引き寄せようとする、ここ数年来の有志国と市民社会の努力が、ついに具体的条約として結実した。条約の全文や日本社会にとっての意味を含む評価は次号に掲載することにし、本号では審議経過と条文の変遷を振り返りつつ、採択された最終案の内容を概観する。
数次にわたる改訂
6月15日に再開された交渉会議は、週末を挟み21日午前の部まで4日半、公開審議の場で議長の条約素案2を冒頭から順に検討した。市民社会も積極的に参加し、日本からもピースデポを含む計8団体の代表者が発言した3。ピースデポの発言は日本など核依存国の条約参加に関するもので、19日に筆者が行った。条約にこれら諸国の核依存政策の変更を促す条項を入れてはどうか、そうすれば当該国の条約参加を求める国内世論の喚起にも資するのではないかと、日本の状況に引き付けて提案した4。
21日午後の部以降、会合は政府間の非公式のものが大部分となり、条約改訂案の発表を公式会合で行う形で日程が進行した。
6月27日、それまでの討議を踏まえた第2次条約案が議長から発表された。第2次案では前文が長くなり、保障措置や核保有国参加に関わる規定をはじめ数々の修正が加えられた。一方、附属書は削除された。その後も主に非公式会合での交渉が続き、7月3日に第3次案が発表された。第3次案は、禁止事項に「使用の威嚇」が入り、核廃棄の検証機関が規定されるなど、重要な変更がいくつかなされた。そして6日、さらなる若干の修正を踏まえた条約最終案(A/CONF.229/2017/L.3/Rev.1)が判明した。
前文を大幅に加筆
前文は、第2次案に至る過程でかなりの加筆修正がされた。参加者の様々な意見を取り入れた結果、パラグラフ数は24に増え、分量にして素案の2倍近くとなった。
核リスク、核軍縮の倫理的責務、核活動の先住民族に偏った影響、国際人権法、平和教育・軍縮教育などへの言及が加わり、総じて核被害の非人道性に関連する記載が厚くなった。
また、国連憲章の「武力による威嚇」の文言が加わり、「軍事上および安全保障上の概念、ドクトリン、政策における核兵器への依存の継続を憂慮する」と記載されるなど、核依存国を意識したと取れる表現が追加された。前述のピースデポ発言では「軍事上および安全保障上の概念、ドクトリン、政策において核兵器がいかなる役割も果たしていないこと」を締約国に申告させる規定を提案したのだが、前文のこの加筆は同じ問題意識を表している。
歓迎しがたい変更点もあった。まず、核兵器使用の国際法・国際人道法違反を「宣言」していたのが、「考慮」するという表現に弱まった。また、核エネルギー平和利用の「奪い得ない権利」を確認する節が加わった。3月会期以来、NPT上のこの権利を強調する声が多くの国からあがっていたのが反映された格好だ。
「通過」「融資」は明文で禁止せず
禁止事項を定めた第1条の規定は、第3次案の段階で、「使用の威嚇」が明文で禁止され、核実験については「核爆発を伴う」との限定が外された。
「使用の威嚇」は、核抑止概念を違法化する意義などを根拠に明文での禁止を求める声が、3月会期に引き続き第2会期でも多くの国やNGOからあがっていたが、それが通った。
「実験」に関しては会期序盤の公開審議で、CTBTでは規制されない未臨界実験やコンピュータ実験も対象とすべきとの意見が出る一方で、検証が困難などとする慎重論も見られた。しかし、条約が核兵器そのものの禁止を目的とするのだから、限定を外すのは当然といえよう。
公開審議では他に、素案にない「通過」や「融資」を禁止事項として明示すべきとの発言も目立った。特に「融資」の禁止は、核兵器産業に打撃を与えられるとして複数のNGOが明文化を強く主張した。これに対し主導国などから検証や履行が困難だとして反対意見が出された。「通過」についても、検証の困難性を理由にした消極的な意見が聞かれた。結局、「通過」と「融資」は最終案で明記されるに至らなかった。
保有国「加盟後廃棄」の道筋を明確化
締約国の申告事項(第2条)としては、第3次案の段階で、「所有」「保有」「管理」の有無のほか、「核共有(ニュークリア・シェアリング)」政策の中で米戦術核が配備されている一部NATO加盟国を念頭に、「領域内での他国の核兵器の有無」も挙げられるに至った。また、後述するように、核保有国が加盟後に廃棄する道筋が規定されたことと整合させるべく、文言が整えられた。
保障措置(第3条)に関し、素案では条約独自にNPTと同様のものを規定していたが、第3次案の段階で「締約国はIAEAの保障措置を受ける義務を維持し、IAEAとの保障措置協定が未締結の国は一定期間内に締結する」旨の規定に書き換えられた。
議論の最大の焦点が、核保有国の条約参加に関わる第4・5条(第3次以降、4条に一本化)だった。
本誌前号でも述べたとおり、素案は、①保有国が核兵器を廃棄してから条約に加盟する、②核兵器の放棄を決意した保有国が条約締約国との間で廃棄プロセスを交渉して議定書を締結しそれに従って廃棄する、という方法を規定していた。会期中、南アフリカからさらに、③核放棄を決意した保有国が、一定期間内に核兵器を一定の計画に従い廃棄することを宣言した上で条約に加盟し、その計画通り廃棄していく、という道筋が提案された。
非公式会合での審議を経た第3次案に至って、保有国の参加方法としては、上記①案および③案を基本にしつつ「廃棄後に加盟する」、「加盟後に廃棄する」という2つの道筋が整理された。後者における廃棄期限は最初の締約国会議までの間に決めることとされ、締約国が廃棄の検証を行う国際機関を指定すべきとされた。また、領域内に他国の核兵器を置いている国も③案と類似のプロセスで条約に加盟できると規定された。
発効要件国数は50に増加
紙幅の制約から、上述した以外の条項については最終案の要点を記すにとどめる。
・被害者援助や環境回復の義務を定めた規定と、条約上の義務履行に際しての国際協力の規定との関係が整理された。被害者の所在国のほか核兵器使用や核実験の実施国の責務が明記された。
・締約国会議は、初回を発効後1年以内、以後は原則隔年で開催する。臨時会議も開ける。発効から5年後、以後原則6年毎に再検討会議を開く。
・締約国会議と再検討会議には、非締約国、関係の国際機関およびNGOが、オブザーバーとして招待される。
・素案で40だった発効要件国数は50となった。
・素案には「この条約はNPT締約国の権利及び義務に影響を及ぼさない」と規定する条文があったが、議論の末、他の条約との関係についての一般的な規定に置き換わった。
秋の国連総会で署名開放へ
条約は17年9月20日から署名開放される。賛成票を投じた交渉参加国をはじめ多くの国が速やかに署名、批准し、条約をできる限り早期に発効させることが求められる。そのための市民社会の取り組みも続く。(荒井摂子)
注
1 オランダが反対、シンガポールが棄権した。
2 本誌前号(522号、17年6月15日)参照。
3 他の発言団体は、新日本婦人の会、創価学会インターナショナル、日弁連、日本被団協、ピースボート、平和首長会議(広島市長、長崎市長代理)。
4 発言原稿(英文)はwww.reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/nuclear-weapon-ban/statements/19June_PeaceDepot.pdf