〈資料〉核禁条約交渉会議での高見澤将林軍縮大使の演説(抜粋訳)

公開日:2017.08.01

<資料>核兵器禁止条約交渉会議における高見澤将林軍縮大使の演説(抜粋訳)
2017年3月27日
ニューヨーク国連本部

 議長、事務総長、総会議長、各代表の皆さま、

 広島と長崎における核兵器の戦時使用の惨害を経験した唯一の国として、日本には、原爆投下の実相とその人道上の結末に対する明確な認識について、国境と世代を超えて注意を喚起する使命があります。この努力を通じて、日本は核軍縮の前進のための国際社会の団結を促し、核兵器のない世界を実現するという共通の目標に向かって、他の国々と協働してきました。

 (略)日本は核兵器国と非核兵器国の協力を基礎に、核兵器使用の人道上の側面への認識と国際安全保障の厳しい現実への客観的認識の両方を視野に収めながら、実際的かつ具体的措置を積み上げることが重要であるということを一貫して訴えてきました。このアプローチこそが、核兵器のない世界に到達するためのもっとも効果的な道筋であると信じています。この立場に変わりはありません。

(略)
 核軍縮は国家安全保障と密接に関連しています。すなわち、現に存在している安全保障上の懸念を考慮しないで軍縮を実現することはできません。我々は、ますます悪化しつつある国際社会の現在の安全保障状況から目をそらしてはなりません。北朝鮮は、国連安保理の関連決議に違反して、昨年来2回の核実験と20回の弾道ミサイル発射を行い、さらに核保有国を目指す意思を公言しています。これは、北東アジア地域と国際社会全体にとっての現実的で差し迫った安全保障問題です。(略)したがって、核軍縮措置が各国、各地域の現実の安全保障上の懸念への対処にいかに貢献しうるかの現実的展望を考えることは決定的に重要であります。

(略)
 日本が一貫して訴えてきたように、核軍縮の前進のためには核兵器国の関与が不可欠です。もっとも重要なことは、核兵器国を含む国々の間に信頼と信用を構築し、そのことをとおした二国間、多国間の努力によって、核兵器を削減するための具体的な措置の合意など、様々な現実的で実際的な措置を積み重ねることです。

 地域的な問題を解決することで、国々が核兵器保有の動機となるような諸要素を除去することもまた必要です。このようにして、私たちは核兵器の廃棄を可能とするような安全保障環境を創り出す努力を加速せねばなりません。

(略)
 核兵器国、非核兵器国を含むすべての国の行動をとおして、このような努力を積み重ねた後に、私たちの「漸進的アプローチ」がいう、核兵器の数が極めて少ない「最少化地点」に到達することが期待されます。この地点が手に届くようになって初めて、私たちは、核兵器のない世界に向かう最後のビルディング・ブロックとして、効果的で意味ある法的文書を作成することができるようになるでしょう。

(略)
 このようなアプローチに基づき、核兵器国の関与を得て、日本は、国際社会がNPTなどの協議の場を通して国際社会が合意した核軍縮措置を、着実かつ効果的に履行するために次のような具体的な核軍縮努力を前進させることに力を注ぐ所存です。
 第1に、日本はNPTを核軍縮と不拡散の礎石として強化するNPT再検討プロセスに貢献してきました。例えば、日本は非核兵器国の地域横断的グループであるNPDIにおいて主導的な役割を果たしてきました。NPDIは透明性の向上といったような具体的措置を提案してきました。日本は核兵器のない世界に向かう具体的かつ重要な措置である透明性の向上を特に重視しています。(略)私たちは今年5月に始まる2020年NPT再検討プロセスの成功に向けた国際社会全体の協力を拡大することを引き続き訴えてゆきます。

 第2に、日本は、とりわけ核兵器国が参加して具体的措置を決定する協議の場での具体的かつ実際的な措置の前進を進捗させることに注力します。この努力には以下が含まれます:

 日本は核兵器の全面的廃絶のための結束した行動を求める決議を23年間にわたり国連総会に提案し、圧倒的な支持を得てきました。日本はまた、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効のために、20年以上にわたり、忍耐強い堅実な外交努力に加えて技術的、財政的支援を提供することによって積極的に貢献してきました。さらに日本は、核兵器の増産を許さないという国際社会の意志を示すために、FMCT交渉の早期開始に向けて国連に設立されたハイレベル専門家準備グループにおける議論に積極的に参加してゆく所存です。

 実際に核兵器を廃棄してゆくための重要な要素である検証に関して、日本は核軍縮の検証に関する政府専門家グループの国連での設立と、核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)の活動に積極的に貢献しています。

(略)
 昨年、この会議を開催する決議が国連総会で採択されました。核兵器の惨害を経験した国として日本は、核軍縮が遅々として進まないことへの非核兵器国の苛立ちと、実質的前進の達成への真摯な願望を、理解し共有しています。

 日本は、核兵器国に対して禁止条約が出てきた背景を、正面から誠実に吟味し核軍縮を前進させるための努力を尽くすよう求めてきました。また多くの非核兵器国と、禁止条約のアイデアを含む核軍縮に関して、様々な国際会議で真剣に話し合いました。

 禁止条約は、もしそれが一発の核兵器も実際に削減するものでないのなら、さしたる重要性を持たないでしょう。実際、核兵器国の参加なしにこのような条約を作ろうとする努力は、核兵器国と非核兵器国の間のみならず、非核兵器国間の分裂と分断を深め、ひいては国際社会を分裂させるでしょう。そして核兵器のない世界を達成するという私たちの共通の目標を遠ざけるでしょう。たとえこのような条約が合意されても、北朝鮮の脅威のような安全保障問題が解決に導かれるとは思いません。日本が昨年の国連総会決議71/258に反対した理由はここにあります。

 これまでの議論と検討から、禁止条約というコンセプトでは核兵器国の理解も参加も得られないことが明らかです。さらにこの交渉は、核兵器国と協力して実際に核兵器の廃棄に導くように組み立てられていません。残念ながら現在の状況では、日本がこの会議に建設的かつ誠意をもって参加することは難しいといわねばなりません。

(略)
 日本は国際社会における建設的対話と協力に高い価値を置いています。核兵器のない世界を達成するための効果的かつ包括的な努力を前進させるために、私たちは、核軍縮に関する様々なアプローチを考えている国々との双方向的な意見交換の場を持つことなどでイニシャチブをとってゆく所存です。(後略)

(訳:ピースデポ)
原文:www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/nuclear-weapon-ban/statements/27March_Japan.pdf