【朝鮮半島危機】米国と北朝鮮は戦争挑発をやめよ外交交渉こそ解決の道――今こそ「非核兵器地帯」をテーブルに

公開日:2017.08.01

国連安保理決議に反して核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に、米国は「あらゆる選択肢」で対抗するとして、体制打倒までを想定した米韓合同演習を展開している。軍事圧力・制裁と挑発的言動の応酬には、たえず偶発的武力衝突の可能性が潜む。一方、日本政府とTVメディアは「核とミサイルの恐怖」を煽り、政府与党からは対北攻撃能力を含む軍拡提案がなされている。軍事圧力と挑発の迷宮から脱する道は外交交渉と信頼醸成以外にない。今こそ、市民の側から「北東アジア非核兵器地帯」という対案をテーブルにのせるときである。


 

 17年1月1日から4月下旬に至る朝鮮半島の動きを2ページの日誌にまとめた。たび重なる国連安保理の禁止・制裁決議にも拘わらず、昨年1年間で2度の核実験、20回以上の弾道ミサイル発射と1回の人工衛星打ち上げを行った北朝鮮は、トランプ政権発足から間もない2月12日、弾道ミサイルを発射した。トランプ政権の無定見な北朝鮮政策も手伝って、朝鮮半島の緊張は一挙に高まっている。

最大規模の米韓合同演習

 3月1日に始まった最大規模の米韓合同演習が4月30日まで続いている。四軍実動演習「フォールイーグル」(3月1日~4月30日)と指揮所演習「キーリゾルブ」(3月13~24日)が複合・連動する演習である。昨年は「斬首作戦」と呼ばれる政権打倒シナリオを含むことが注目されたが、これとともに今年の演習には15年11月に韓米間で合意された「4D抑止戦略」―北朝鮮の核・ミサイル施設から防衛(defend)し、それらを探知(detect)、妨害(disrupt)、破壊(destroy)するシナリオを含むと韓国当局は話している。危機が差し迫っているときには、先制攻撃を行うことも想定されている(注1)。
 演習には戦略爆撃機、空母打撃団を含むあらゆる戦略的資産が投入されているほか、かつてアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを殺害した米特殊部隊が1,000人規模で参加と言われている(注2)。総戦力は30万人を超えるとされているが具体数は公表されていない。
 当然のことながら、北朝鮮政府と軍はこの演習が体制変更をも狙うものとして極度の警戒心を抱いている。朝鮮人民軍には戦時に匹敵する態勢が下命されていることは想像に難くない。演習開始後に弾道ミサイル発射実験の頻度が上がっていることも警戒心の表れだと思われる。3月6日に4基の弾道ミサイルを発射したときには、「在日米軍基地への攻撃訓練」であったとのコメントも発せられた。

膨らむ疑心と偶発衝突の可能性

 一方、ミサイル発射には「あらゆる選択肢」で対応するとしているトランプ大統領がいう「きわめて恐ろしい結末」(3月7日)が何を意味し、究極的な行動に踏み切ることを判断する「レッドライン」がどこに引かれているのかは曖昧にされている。このことが北朝鮮の不安と疑心を増大させる。彼我の間の通常戦力の圧倒的な差を思えば当然である。米国が中国に対して制裁強化を迫り、中国も一部それに応じていることも北朝鮮の不安と疑心をいっそう高める。
 米朝間に公式の外交ルートが存在しない中で、このような敵対関係が継続すれば、偶発的な軍事衝突がいつ起こってもおかしくない。朝鮮半島はまさに一触即発の状況におかれている。
 危険な「心理ゲーム」を早く終わらせねばならない。ボールを握っているのは明らかに圧倒的強者である米国だ。中国のいう「合同演習とミサイル発射の相互中止」(3月7日)はその意味できわめて理にかなった提案だと思われる。

日本は「危機」に乗じた軍拡論議を止めよ

 このような状況の中で、日本の政府与党とメディア(特にテレビ)が果たしている役割はきわめて悪質である。テレビは一日中ミサイル発射の資料映像を繰り返し、無責任かつ多くの場合好戦的なコメントを振りまいている。与党のタカ派政治家たちは、この機に乗じて軍拡を扇動する。いわく「ミサイル防衛を強化せよ」、「日本も敵地(北朝鮮)反撃力を持て」……(資料)。一方、「国民保護ポータル・サイト」(注3)へのアクセス数が3月は45万件、4月は22日現在250万件を超えたという(4月22日各紙)。サイトは「ミサイルから身を守る」方法を解説する。実際にはミサイルが飛んできたら身を守るすべなどないに等しいのに、先の大戦中の「隣組」の回覧板のような情報がネットを介して国中に流されている。
 
 緊急の課題は戦争の危機を遠ざけることだ。そして危機扇動からも自由になって、全ての当事国と市民は、北東アジアにおいて北朝鮮の核もアメリカの核も否定する非核兵器地帯を創る道を、熱い思いと冷静な思考で検討しはじめるべきだ。(田巻一彦)
 

1 「グローバル・セキュリティ」ウェブサイト。
www.globalsecurity.org/military/ops/rsoi-foal-eagle.htm
2 「聨合ニュース」(電子版)、17年4月20日。
3 www.kokuminhogo.go.jp