【資料】 プルトニウム分離の中止で世界の核セキュリティー強化に貢献することを求める安倍首相への要請書
公開日:2017.07.18
3月31日から4月1日にかけて米国ワシントンDCで開かれる核セキュリティ-・サミットを前に、世界の核問題の専門家、市民団体などが安倍晋三総理大臣に「六ヶ所使用済み核燃料再処理工場運転の無期限延期を発表することにより、核セキュリティー・サミットに大きな貢献をするよう要請」する書簡を送った。書簡は、前回のハーグ・サミットで宣言された「世界の分離済みプルトニウムの存在量を最小限にするという日米両国の目標に向かって進むため」には再処理でこれ以上プルトニウムを増やさないようにすることこそが重要と訴えている。書簡の署名約180筆の中にはノーベル平和賞受賞団体「核戦争防止医師会議(IPPNW)」も含まれている。(編集部)
総理大臣 安倍晋三 様
2016年3月25日
要請:プルトニウムの分離を止めることによって世界の核セキュリティー強化に貢献すること
下に署名した私たちは、安倍晋三総理大臣と日本政府に対し、六ヶ所使用済み核燃料再処理工場運転の無期限延期を発表することにより、核セキュリティー・サミットに大きな貢献をするよう要請します。
オランダのハーグで2014年に開かれた第三回核セキュリティー・サミットにおいて、安倍晋三総理大臣とバラク・オバマ大統領は以下の通り合意したことを発表しました。
「日本にある日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速炉臨界実験装置(FCA)から,高濃縮ウラン(HEU)及び分離プルトニウムを全量撤去し処分する」
そして両者は、次のように宣言しました。
「この取組は,数百キロの核物質の撤廃を含んでおり、世界規模でHEU及び分離プルトニウムの保有量を最小化するという共通の目標を推し進めるものであり、これはそのような核物質を権限のない者や犯罪者、テロリストらが入手することを防ぐのに役立つ」
FCAの331kgのプルトニウムは、米国サウス・カロライナ州にあるエネルギー省のサバンナリバー・サイトに送られることになっています。FCAを運転する日本原子力機構(JAEA)によると、このプルトニウムのほとんど(236kg)は、元々英国からのもので、93kgが米国、残り(2kg)がフランスからのものです。
サウス・カロライナ州の人々に、警備の不十分なJAEA東海村施設における盗取の可能性から世界を守るためこのプルトニウムを受け入れるようお願いする一方で、日本は2018年に、同じく保安態勢の不確かな六ヶ所再処理工場の運転を開始することを計画しています。日本の使用済み核燃料から最高年間8000kgのプルトニウムを分離するよう設計されているこの工場は、現在、核兵器を保有していない国にある唯一の再処理工場です。
米国国家核安全保障局(NNSA)の世界脅威削減イニシアチブ「撤去プログラム概観」(2014年12月3日)によると、FCAの331kgのプルトニウムは、処分のために米国に送られる物質に関する次のようなプログラム要件を満たしているとのことです。
「その物質は、また、国家安全保障に対する脅威であり、即席核爆発装置で使われる可能性があり、高いテロリスト脅威を有し、盗取または転用に対するセキュリティーを保証する他の合理的な道がないものでなければならない」
NNSAは、この危険性を減らすために努力してきているが脅威がまだ残っていると述べ、世界の民生用分離済みプルトニウム問題に対する注意を喚起し、次のように強調しています。
「世界の民生用プルトニウムは過去20年間で急激に増えて」おり、「プルトニウムの蓄積を止め、その量の削減を開始するために更なる国際取り組みが必要である」
第61回「科学と国際問題に関するパグウォッシュ会議――長崎の声:人間性を心にとどめよ」(2015年11月1-5日 長崎)の後、パグウォッシュ会議評議会は、同じ危惧を持って、次のように宣言しました。
「プルトニウムを分離する再処理は、それがエネルギー目的であれ兵器目的であれ、すべての核兵器国を含め、すべての国で止めるべきである。原子力計画における高濃縮ウランの使用は止めるべきである。国際安全保障に与える影響に鑑み、各国は、核燃料サイクルに関する主権に対する制限について相互に合意しなければならない」
2014年末現在、日本は、4万7800kg(47.8トン)の分離済みプルトニウムを保有しています。日本に1万800kg、英国に2万700kg、フランスに1万6300kgです。「核分裂性物資に関する国際パネル(IPFM)」によると2014年末現在の世界の民生用プルトニウムの量は約27万kg(270トン)です。三つの核保有国(フランス、英国、ロシア)と日本がこの分離済みプルトニウムのほとんどを保有しています。米国は約5万kg(50トン)の兵器用余剰プルトニウムの処分に手を焼いています。核兵器利用可能物質のこれ以上の蓄積は、国際社会にとって、また、日本の隣国にとって懸念事項です。隣国は、なぜ日本が核兵器直接利用可能物質をこんなに大量に分離しているのか訝っています。分離済みプルトニウムはセキュリティー上のリスクです。また、他の国が日本の例に倣えば、核拡散リスクを高めることになります。実際、韓国は、日本と同じプルトニウムを分離する権利を認めるよう米国に要求しています。
安部総理大臣とオバマ大統領は、331kgのプルトニウムを米国に輸送する計画を発表した際、続けて、次のように述べています。
「高濃縮ウラン(HEU)とプルトニウムの最小化のために何ができるかを各国に検討するよう奨励する」
2014年3月のこの時点での計画では、六ヶ所再処理工場の運転が、ちょうどもうすぐ開かれる核セキュリティー・サミットの頃に始まることになっていました。この通りに行けば、非常に皮肉なタイミングになっていたでしょう。この予定は、その後、2018年に延期されました。福島事故の後設立された原子力規制委員会の定めた新しい安全性基準を再処理工場運転事業者が満たせていないからです。日米原子力協力協定を2018年に自動延長させることに米国が同意するよう日本政府が望んでいる状況において、計画延期が実質的に日本のプルトニウム分離の注目度を下げることになることを密かに願っているものがあるかもしれません。協定では、米国型の原子力発電所で使われた使用済み燃料からプルトニウムを分離する権利を米国が日本に認めているからです。
私たちは、日本に対し、ワシントンDCで2016年3月31日-4月1日に開催される核セキュリティー・サミットにおいて、世界の分離済みプルトニウムの存在量を最小限にするという日米両国の目標に向かって進むために、六ヶ所再処理工場運転開始計画の無期限延期を発表するよう要請します。そうすれば、核セキュリティー強化のための世界的な取り組みに対する大いなる貢献となることでしょう。
署名者リスト: http://kakujoho.net/npt/lttr_nucscrty.html
(最初の呼びかけ人:伴英幸・原子力資料情報室共同代表、藤本泰成・原水爆禁止日本国民会議(原水禁)事務局長、川崎哲・ピースボート共同代表、田巻一彦・ピースデポ代表)
*編集部注:サウスカロライナ州知事は、日本から輸送されるプルトニウムの受け入れを拒否していると報じられる。16年3月26日、CNN。