オバマ政権、2016年に核兵器553発を一方的に削減――透明性増大に一定の意義
公開日:2017.06.01
17年1月11日、バイデン米副大統領(当時)は、カーネギー国際平和財団における演説で、オバマ政権8年の核兵器政策を振り返り、15年9月からの1年間で一方的に削減した核兵器の数は553発に上ったと発表した(5ページからの資料に演説草稿の抜粋訳)。これにより米国の予備を含めた核兵器保有数は、16年9月現在、4,018発になる。バイデン氏はまた、2,800発が解体待ちであることも示した。同日、ホワイトハウスは、演説の裏づけとして、09年プラハ演説以来の核兵器政策の実績を示すファクトシート(注1)を発表した。
全米科学者連盟(FAS)のハンス・M・クリステンセンが自らのブログ(注2)でバイデン演説に対する評価を行っている。以下その要点を紹介したい。
まずクリステンセンは、米国の保有核兵器数の経年変化をグラフ化(図は省略)し、オバマ政権による削減は小幅に終わったと指摘した。すなわち、オバマ政権8年間の削減数は1,255発であり、政権ごとの削減数としては冷戦後の政権の中で最も少ない(注3)。それでもオバマ政権による削減数は、ロシアを除く他の核兵器保有7か国の合計数よりも多い。冷戦後における核削減数を見ると、共和党政権で1万4,801発に対し、民主党政権では4,437発と共和党政権における削減の方が圧倒的に多い。前政権から引き継いだ総数に対する削減割合でみればオバマ政権は24%。クリントン政権の23%をわずかに超える数字だ。
一方、米政府発表では一貫して削減された核弾頭の種類は公表されていない。クリステンセンは、削減されたのは未配備の不活性予備であるヘッジ弾頭(注4)であろうと分析した。その中には、いずれ退役される予定の余剰なW76(潜水艦発射弾道ミサイル用)、B61(爆撃機搭載用)、B83(爆撃機搭載用)弾頭、更にはW84(地上配備巡航ミサイル用)、W78(ICBM「ミニットマン」用)弾頭などが含まれる。
16年に削減された553発は、解体待ちの弾頭群に加えられた。15年4月、ケリー国務長官が退役弾頭は2,500発あると発表していたが、今回、バイデンは、それが約2,800発に増えたとした。退役弾頭が300発増えたということは、 553発から300発を差し引いた約250発が2015年に解体されたことになる。バイデンは、オバマ政権は8年で2,226発の核弾頭を解体したとも述べた。これに従えば、オバマ政権は1年に平均278発ずつを解体してきたことになる。
クリステンセンは不十分性を認めつつ、「オバマ政権が、核兵器を一方的に削減し、削減の流れを改善する追加的措置を選択したことは称賛されねばならない」とし、それはNPTにおける米国の立場を強化し、他の核兵器国に対する圧力を高める役割を果たすであろうと評価している。
クリステンセンはさらに、「オバマ政権が、自国の核戦力に関する透明性を高める努力を続けていることも称賛に値する」と続ける。同政権は10年以来、核備蓄数、弾頭解体数、解体待ちの退役弾頭数などの経年変化を公表し、毎年アップデートしてきた。これは、他の核保有国に対し、より透明性を高めるよう求める圧力になるし、核兵器の歴史や将来について、事実に基づき議論する上での有用性があることをクリステンセンは認めた。
そしてクリステンセンは、次のように分析を締めくくった。「オバマ政権は、徐々にではあるが責任をもって核兵器数を削減し、信頼性を高めてきた。この核政策の大きな枠組みをトランプ政権も継続すべきであろう。」(湯浅一郎)
注
1 ファクトシート「プラハ核アジェンダ」。https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2017/01/11/fact-sheet-prague-nuclear-agenda
2 全米科学者連盟「戦略安全保障」ブログ、17年1月11日投稿。
https://fas.org/blogs/security/2017/01/obama-cuts/
3 15年末までのグラフは本誌499-500号(16年7月15日)。
4 弾頭の技術的故障などに備えるための予備。