資料:イラン核合意の継続を科学者たちからドナルド・トランプ氏への書簡
公開日:2017.05.01
ドナルド・トランプ氏は選挙キャンペーンの中で、米、ロ、英、仏、中及び独とEUがイランとの間で15年7月14日に署名した「共同包括的行動計画(JCPOA)を「史上最悪の合意」と非難し、「大統領に就任したら破棄する」とほのめかした。ここに紹介するのは、就任式間近の今年1月2日、ノーベル賞受賞者を含む科学者と技術者37人が同氏に送った公開書簡である。科学者たちは、イランの核開発を防止するJCPOAを継続するよう強く訴えている。JCPOAについては本誌476-7号(15年8月1日)を参照。(編集部)
2017年1月2日
拝啓 トランプ次期大統領 様
2015年8月9日、原子力と核兵器の物理及び技術に関する知識を持つ科学者と技術者のグループが、正式には共同包括的行動計画(JCPOA)として知られているイラン合意について、オバマ大統領に公開書簡を送りました。その中で私たちは、JCPOAを「過去に交渉されたどの核不拡散の枠組みよりもはるかに厳しい制約を持つ、画期的な合意」であるとの認識を述べました。
「履行日」から11か月が経過した今、JCPOAの現状に対する私たちの評価を貴殿にお伝えするためにこの書簡をしたためています。この合意に従って、イランは約3分の2の遠心分離機の稼働を停止し、IAEAの封印をして保管しています。さらに、イランは、兵器製造に使用可能な(兵器級)高濃縮ウランの出発物質である、低濃縮ウランの備蓄の95%以上を国外に移転しました。イランは、暫定的共同行動計画(JPOA)の合意以前に行っていたような濃縮度20%近くのウランをもう生産しておらず、濃縮度は3.67%に制限されています。遠心分離能力が低下されたことと、部分的に濃縮されたウランの大量の備蓄が廃棄されたことにより、イランが核兵器1発を製造するのに十分な量の高濃度ウランを取得するのに要する時間(ブレイクアウト・タイム)は、JPOAの交渉中は数週間でしたが、何か月にも延びました。今や国際原子力機関(IAEA)の査察官は、イランのナタンツ濃縮施設に毎日立ち入る権利を持ち、同施設に設置されたモニタリング機器によりオンラインで継続的に濃縮度を測定することができます。私たちはこの施設で突然多量の濃縮ウランが製造されることはありえないと確信します。
イランの重水炉の原子炉容器である巨大な「カランドリア」は、運転不可能な状態になっており、また、イランの重水の備蓄は130トンに減少し、この水準に制限されています。最近IAEAにより報告された余剰の重水0.1トンに戦略的な重要性はありませんが、この問題も11トンの重水を国外移転することで解決されました。このことはIAEAによって検証されています。原子炉の設計変更によってプルトニウムの生成量は以前の原子炉の約10%に減少するでしょう。そして、新しい原子炉の建設が完成して操業を開始したら、プルトニウムを含有した使用済み燃料はイランから搬出されます。これらの措置によってイランは、核兵器のもうひとつの原料であるプルトニウムの生産手段を失うことになります。
さらに、イランは、核不拡散条約に基づいてIAEAと締結した保障措置協定「追加議定書」の手続きをさらに強化することに同意しました。この同意により、IAEAの査察官は、特に遠心分離機の製造・研究開発・保管場所、ウラン鉱山、そして秘密のウラン濃縮施設と疑われる場所の全てに立ち入ることができるようになりました。
つまり、JCPOAはイランが突然大量の核兵器製造のための物質を生産しうるというリスクを劇的に低減しました。その結果、イランの周辺国が感じていた自国で核兵器を開発するという選択への圧力が減少し、どの周辺国も新たな民生・軍事両用の核開発計画を発表していません。
当面は、実施中の検証手続きにより警戒を続けることが必要でしょう。前回の書簡の中でも述べたように、もし約10年後に、イランがJCPOAで許されているように、自国の濃縮能力を増やす決定をした場合は、さらに強力な検証手続きを導入することが望ましいでしょう。またそうすることは、国際的に受け入れられているIAEAの慣行に従って認証された最新の検証手続きを履行するという、JCPOAにおけるイランの誓約とも合致します。現在はイラン一国のみで行っている原子炉用の燃料生産プログラムに、他の国が参加することも、透明性を高めるために望ましい方法かもしれません。
JCPOAは、貴殿あるいは将来のどの米国大統領からも選択肢を奪うものではありません。むしろJCPOAは、貴殿がイランが核兵器を製造しようとしているのか否か、またそれがいつなのかを知ることをより容易にしています。また、JCPOAにより、(核兵器製造の試みに対する)効果的な対策をとる時間と正当性を得ることができます。
私たちの技術的な評価では、多国間合意であるJCPOAは、イランの核開発計画に対する強力な防壁になっています。私たちは、貴殿が、この米国の死活的な戦略的資産であるJCPOAを継続されることを求めます。
リチャード・L・ガーウィン
(IBM名誉フェロー)
ロバート・J・ゴールドストン
(プリンストン大学)
ジークフリード・S・へッカー
(スタンフォード大学)
マーティン・ヘルマン
(スタンフォード大学)
ラッシュ・D・ホルト
(米国科学振興協会)
R・スコット・ケンプ
(マサチューセッツ工科大学)
フランク・フォン・ヒッペル
(プリンストン大学)
他の署名者30名
(訳:ピースデポ)