【資料】 レイキャビク米ソ首脳会談から30年 ①潘基文国連事務総長と②ゴルバチョフ元書記長の現地講演(抜粋訳)
公開日:2017.04.14
1986年10月11~12日、アイスランドのレイキャビクでレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長(いずれも当時)が核軍縮に関する首脳会談を行ってから30年がたつ。この節目を記念して、今年末で2期10年間の任期を終える潘基文国連事務総長と、会談の当事者の一人であったゴルバチョフ氏が、それぞれ、現地の別の会合で講演を行った。その抜粋訳を以下に掲載する。(編集部)
核軍縮と平和への共通のビジョンを
潘基文
2016年10月8日
アイスランド大学レイキャビク平和センター主催・記念セミナー
(前略)
レイキャビクで学んだ教訓が30年後の今ほど重要な時はない。
見ていただきたい。我々は冷戦の亡霊の復活を目にしている。我々は軍備管理と軍縮追求のための枠組みへの重大な挑戦や、軍縮機構の機能停止を目にしている。我々は非国家組織が核物質を購入しようとしているのを目にしている。
ブダペスト覚書の遵守が脅かされ、核兵器国によって提供されている安全の保証の価値に疑問が投げかけられている。
近年、驚くべきことにレイキャビク・サミットの第一の成果であるINF条約が、違反の非難によって危機にさらされている。核による威嚇や示威は問題を引き起こしつつ頻発している。
事実、核実験に対する国際的な規範は近年、一つの国によって繰り返し破られている。
1万5,000発以上の核兵器が世界中に存在する。1発でさえ多すぎるのに1万5,000発も。1発でさえ全人類を破壊する。
それらの中にはレーガン大統領とゴルバチョフ書記長が1986年に廃棄しようとしたのと同じ攻撃弾道ミサイルが多数含まれている。
今日に至るまで、これらのミサイルの多くは高度の警戒態勢に置かれ、通報の瞬間発射される態勢にある。
レイキャビク・サミットに暗い影を投げかけたミサイル防衛に関する論争は軍備管理と国際的安定性の分野における大きな未解決課題として存在している。
1990年代における主要な戦略兵器の削減の後、削減のペースは落ちた。両陣営からの提案がされているにもかかわらず、今、新しく交渉は行われていない。
ロシア連邦と米国が近年戦略核兵器の配備を削減したり、包括的核実験禁止条約(CTBT)のような長らく追求されている目標を支持していることを称賛する。
(略)
任期の初期に、私は核軍縮のための5つの提案をした。私はカザフスタンのセミパラチンスクにある核実験場跡を訪れた。私は、セミパラチンスク実験場を訪問した最初の国連事務総長であっただけでなく、最初の世界的指導者であった。その核実験場の中心に立つことは、きわめて感動的で、そして恐ろしい経験だった。
私は広島で行われた平和記念式典に出席した初めての事務総長になった。私が広島を訪れた時、米国が広島(の惨禍)に責任があるという印象を与えないだけのために、アメリカからは誰も、東京駐在大使でさえも広島を訪れたことはなかった。私の訪問は米国大使の訪問を促した。そして私の訪問から6年後にオバマ大統領、その前にジョン・ケリー国務長官と、両者が広島を訪れた。
(略)
我々が1986年サミットの遺産を振り返るとき、私はレイキャビクの精神をよみがえらせるための3つの重要で相互に関係しあう方法があると思う。
第1に、冷戦の終結によって、安全保障が相互の自制と法の支配を通して達成されうることが受容される、得難い瞬間が訪れた。この国際平和と安全保障のための共通のビジョンを回復しなければならない。この努力は、核兵器のある世界からの解放だけでなく通常兵器の軍備管理や軍事費の増加に関して前進することをも含まなければならない。世界は過剰に軍事化されているが、平和のために投じられる資金は少なすぎる、
第2に、ロシア連邦と米国がリーダーシップを取らなければならないということだ。世界の核兵器の95パーセントを持つ両国はこの政策課題を前進させるために必要な状況をつくり出す第一の責任がある。オバマ大統領が両国の核兵器をさらに踏み込んで削減することを追求する用意のあることを高く評価する。
第3に、直接関わりあうのに優る手段はない。違いを解決する最善の方法は交渉のテーブルでお互いに話し合い、理解し合うことだ。
こんにちの安全保障環境はさらなる核軍縮を追求するには機が熟していないと主張する人がいるかもしれない。その見方は完全に逆だと私は言いたい。軍備管理と軍縮の追求こそが緊張の打破と対立の減少に資するものである。
武器を減らし、警戒レベルを下げ、リスクを減ずるための措置がお互いの信頼を構築する。
新型核兵器の開発を削減することが新たな軍備競争を防ぐ。
先行攻撃を目的とした核巡航ミサイルや他の兵器の廃絶のための手段を取ることが安定を増進する。
これらの手段が組み合わせて取られれば、地域紛争を終わらせ、世界の多くの場所での対立を解決し、核兵器の廃棄を容易にするための条件を生むことになるだろう。
こんにち、国際環境はたしかに困難だが、現在の緊張はレーガン大統領とゴルバチョフ書記長が冷戦中に直面していた困難にはとても及ばない。
したがって、こんにちの世界の指導者たちへの私のメッセージは明白だ。レイキャビクの精神をよみがえらせよう。
(後略)
(訳:ピースデポ。見出しは編集部)
原文: www.un.org/sg/en/content/sg/statement/2016-10-08/secretary-general%E2%80%99s-remarks-seminar-occasion-30th-anniversary-reagan
核兵器のない世界はユートピアではなく、必要だ。
ミハイル・ゴルバチョフ
2016年10月10日
国際平和研究所(IPI)・アイスランド外務省共催 記念集会へのビデオメッセージ
(前略)
核兵器のない世界は理想郷ではなく、むしろ避けられぬ必要であると私は強く確信している。我々は世界の指導者たちに、絶えずこの目標と彼らの誓約を思い出させる必要がある。
核兵器が存在する限り、事故や技術的な故障あるいは狂気の人物かテロリスト、つまり人間の邪悪な意思によって、いつか使われるかもしれないという危険がある。それゆえ我々は核兵器の禁止と廃棄の目標を再確認しなければならない。
繰り返したい。これは国際政治と国際関係が非軍事化された場合にのみ達成できる。問題や紛争を(たとえ最後の手段としても)軍事力の行使により解決できると考えている政治家は、社会により拒絶されなければならない。彼らは舞台から去らねばならない。
私は元指導者や外交官、科学者、専門家、世界中の市民社会が最も強く明白な言葉で、「核兵器は禁止されなければならない」「戦争は禁止されなければならない」と発言するよう促している。
国際法の全ての原理の中で国際関係における武力の不行使と紛争の平和的解決の原理が、最高位にあるとみなされねばならない。
それを現実にするため、例えば国連、国際司法裁判所、諸条約といった現存する機構は強化されるべきだ。そして必要なら新しい機構が生みだされるべきだ。
核兵器を禁止する問題は国際司法裁判所による審議に付されるべきだと私は思っている。
(略)
我々は対話を再開する必要がある。過去2年にわたって対話を実質的に放棄してきたことは重大な誤りである。意見の相違がある地域的な問題に制限することなく、あらゆる議題にわたって対話を再開すべき時だ。
我々はきっぱりと理解する必要がある。安全で安定した世界は一つの国家や国家グループの意思や計画によって築くことはできない。我々が共にみんなのための世界を築くか、もしくは人類は新たな試練や悲劇の未来に直面するかのどちらかである。
私はできれば悲観的な事は言いたくない。現世代の世界の指導者たちはきびしく批判されてよい。それでも彼らにはまだ国際政治を元の肯定的な路線に戻すこと、そうすることによって核兵器のない世界への道を開くこと、を通じて歴史的な偉業を達成することができる。この機会をとらえなければ大きな過ちを犯すことになろう。
(訳:ピースデポ.。見出しは原文)
原文:http://tass.com/world/905191